第5章 無毒のポイズナー

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「芦屋先生は大胆な言動でのし上がってきたような人です。勿論、本人が優秀なのもありますが。研究界も何だかんだで処世術の上手い人間が勝ち上がりますから。ビッグマウスにそれを本当に実現する手腕――芦屋先生はそれを持っています」 「なるほど」  確かに、芦屋は見た目にも若々しく自信に溢れた男だった。 「ま、振り回されるのは俺ら研究生ですけど」 「あはは……」  それでも、京立大学の薬学部の芦屋教授の下で研究していたとなれば、研究で身を立てるうえでも、就職で製薬メーカーに行くにもプラスとなることは間違いないだろう。 「ほとんど研究室にいないし、すぐキレるし、身体弱いし、すぐ過呼吸起こすし……」  どうやら渡邉は芦屋に対する愚痴が溜まっているようだった。 「まあ、研究室にいないのはうちの須藤教授も同じですが……。でも、いいんですか。そんなに自分の教授の悪口を言って」  渡邉はへらへらと笑いながら手を顔の前で横に振った。 「大丈夫、大丈夫。フォローするのはいつもこっち。芦屋先生は忙しいから授業の準備もする時間がない。授業の資料やスライドを作ってるのは全部俺ら学生。神楽坂さんがうちに来るなら知っておかないと」 「まだ決めたわけではありませんが」 「ま、それでもこの弱肉強食の世界を生き抜いているのが芦屋先生です」 「こう言ってはなんですが、面白い方ですね」 「傍から見てる分にはね」  その時だった。テーブルを挟んだ向こうから愛里達と同じく若手奨励賞受賞者の李と瀬戸内が歩いてきた。愛里と同じく挨拶にでも来たのだろう。  愛里は李にも分かるよう英語で挨拶をした。 「こんにちは」  酒で顔を赤くした李はかなり中国訛りの入った英語で挨拶を返した。 「北京から来ました李です。よろしくお願いします」  国際学会では英語が聞けて話せることが必須だ。愛里も英語をよく勉強した。李もまたそうなのだろう。お互いにたどたどしいながらも情報交換をする。国際学会の楽しみでもある。 「俺は北海道医科大学の瀬戸内夏樹と言います」  これで若手奨励賞を貰った四人が一堂に会したことになる。李と渡邉はドクター(博士)で瀬戸内は愛里と同じマスター(修士)だという。 「国際学会といっても日本人が多いですね。もっと大勢、外国人が来るのかと思っていました」  それでも李は若手奨励賞に満足しているようでわざわざ北京から来た甲斐(かい)があったようであった。
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