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懇親会から引き揚げた愛里達は昨晩から泊まっているビジネスホテルに戻ってきていた。
時刻は午後九時過ぎ。風呂上がり、客室で愛里は貰った賞状を見つめていた。
A3サイズの紙に自分の名前や研究テーマ名が刻まれている。どこかで額縁を買って、この薄くペラペラな賞状に箔をつけてやらなければならない。
愛里は曲がったりすることのないように賞状をクリアファイルに綴じると、入浴後の湿った髪にドライヤーをかけ始めた。
ドライヤーをかけ終わった頃、ノックの音が響いた。
(こんな時間に……誰だろう)
愛里は肩からカーディガンを羽織ると、ゆっくりと部屋の扉を開けた。
「夜分にすみません、神楽坂さん」
「芦屋先生」
少し驚いたが、目の前の芦屋はとても穏やかに微笑んでおり、彼が自分を労いにわざわざやって来てくれたことが分かった。懇親会で少し話した際、芦屋も愛里達と同じホテルに宿泊していることが分かったのだ。そのときに部屋の番号を聞かれたのはこういうことだったのか、と納得した。
「若手奨励賞、おめでとうございます。君の頑張りは見ていれば分かります。審査員にもそれが分かったのでしょう」
「いえ……。いえ、そうですね。頑張った甲斐がありました」
一瞬、躊躇ったが、愛里は素直に自分の努力を認めることにした。
愛里は扉を大きく開け、彼を中に招き入れた。愛里はベッドに腰掛け、彼には椅子を勧める。
「すみませんね。私も忙しくてこんな時でなければ君と話すことができないんです」
「先生がお忙しいのはよく存じ上げています」
「はは、そうですね。……君にこうして会いに来たのはほかでもない。改めて君の進路のことで話をしておきたいと思ったからです」
昨日の昼間の話の続きか。
愛里の中ではいまだ結論は出ていなかった。
大学院修了後に自分はどこに行くべきか。今の研究室に残るのか、芦屋の部屋に移籍するのか、それともどこか別の研究機関に就職するのか。
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