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「そんな赤の他人に……いくら研究のためとはいえ」
「あなたの人となりも含めての投資ですよ」
愛里は混乱していた。話の展開に着いていけない。目の前の男はいったい何の話をしているのか。
「何か不満ですか。私の研究室には動物実験、細胞実験、遺伝子実験はもちろん最新鋭の実験機器があります。最終的には人体を使用した試験も可能です。何ら不自由はないはずです」
「……その、とてもありがたい申し出です。でも、さすがに悪いというか……研究成果如何では私にかけたお金が」
教授はクスリと上品に笑った。
「そうですか。罪悪感に堪えられませんか……。ならば、それがなくなればあなたは私の申し出に賛同してくれるということですね」
「ええ? まあ……」
「ならこうしましょう。私とあなたは“赤の他人”ではない」
「え?」
「私はあなたに生活資金と研究環境を提供する。だからあなたは私に愛を提供するんです」
「ちょ……」
そのとき、目の前の男の上品な微笑みが一気に瓦解した。
顔の皮膚が表裏ひっくり返ったのではないかと思うほどの下卑た笑みが彼の顔には浮かんでいた。
愛里は強い力で腕を掴まれた。そのままベッドに押し倒される。
肩から羽織ったカーディガンが床に落ちた。
「何を?!」
何が起こったか分からなかった。
いつの間にか自分の体が布団に押し付けられており、目の前には自分を組み伏せる男。
途端に目の前の男の体が大きく、絶大な力を持っているように感じられ、愛里は震えた。
「怖がる必要はありません。ただ、赤の他人を卒業するだけです。それだけであなたには自由に使えるお金と不自由ない研究生活が与えられるのです」
「いや……やめてください!」
首を振っても、足をばたつかせても抗えない。
叫ぼうにも息が詰まって大きな声が出せなかった。
「……それに、お父上の医療費も出せるのですよ」
「……!!」
「あなたの研究が大成すれば、あなたのお父上だけじゃない。世界中の人が喜ぶのです」
そこで、彼は言葉を切って、フッと笑った。
「ノーベル賞。その叶わぬ夢すらも抱き続けられるのです」
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