どぜう

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 夏祭りでドジョウをすくった。  赤いヒレを水中で揺らめかせる金魚は確かに妖艶だが、わたしは他の女子たちの後追いをしたくはなかった。たとえこちらにそのつもりがなくても「歩美ちゃんの真似っこ!」などと囃し立てるに違いない。  会場の一角でドジョウをすくおうとするのは、少なくともそのときはわたしだけだった。女子ははじめから気味悪がって近づかなかったし、男子はいざドジョウの身に触れるとそのぬめりに怯んでそそくさと引き上げた。  ズボンの裾を捲り、靴下を脱ぎ、水の中に足を入れる。足元を泳いでいた一匹をえいやとつかむと、細長い身体は予想以上にぬめっていて、力を込めても手の中からするりと抜けてしまう。しかも思っていたよりも泥臭い。  わたしは子どもながらに功名心にとらわれていた。弱腰な男たちの二の舞になるわけにはいかない。なんとしてもつかまえてみせる!  結果としてわたしは水ヨーヨーでもスーパーボールでも金魚でもなく、ドジョウの入った袋をぶら下げて意気揚々と帰宅したのだった。  さて、こいつをどうしようか。  ひとまず空いた発泡スチロールに水を溜め、その上でドジョウの入った袋をひっくり返す。  月明かりに照らされ、ドジョウが金色に輝く。  わたしの目的はドジョウをつかまえることであり、ドジョウを飼うことではない。金魚ならともかくドジョウでは母が嫌がりそうだ。そもそも隅とはいえ、ベランダに発泡スチロールを置いていては邪魔だろう。  明日、学校から帰ってきたら川へ放そう。  自分の運命を知らないドジョウは呑気に身をくねらせていた。
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