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「フゥ、これからどうしよう?」
さびれた裏道で、一人の少年がドラム缶の上に座りながら物思いにふけっていました。少年は、しばらく考えこんでいたかと何か思い付いたようにどこかに行ってしまいました。
(やっぱり、あそこしかないか。久しぶりだけど大丈夫かな?まあ、行ってみるか。)
そんなことを思いながら歩いて行くと、古い神社にたどり着きました。その神社は、ぼろぼろで周りには誰もいませんでした。
「相変わらず汚い神社だなぁ。ぼろぼろだよ。」
少年は、そう言いながらすたすたと社の中に入って行きました。社の扉を開き、入って行くと今度は部屋の奥にある招き猫を右に向けると、なぜか地面が揺れ動き床が下に降りて行きました。一番下までたどり着くと、上の部屋とは比べものにならないくらい広い部屋がありました。薄暗い明かりの中でポツポツと人がいるのが分かりました。少年は、当たり前のように受付のようなところへ行きました。そこで、何か申し込んだかと思うとすぐにその場を立ち去りました。
「えっと、57番か・・・・。まだ、時間あるな。何か見てくか。」
少年が、ふらふらと歩いていると、少年より少し年上の二十歳前後の青年が話しかけてきました。
「おい、オリーブじゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ?珍しいなぁ。」
「別に、シャガこそどうしたんだ。お前も、あれに出るのか?」
オリーブは、シャガを見上げながら聞きました。シャガは、それにニヤニヤとした表情で答えていました。周りは、そんな二人には気にも止めずそれぞれ思い思いにゲームを楽しんでいた。
「まあな。でも、お前もだろ?」
そんなシャガの問いにオリーブは無表情で返していました。
「ああ、先立つものがなければどうやって生活する。」
オリーブは、なぜかシャガに向かってイラついたような表情で言い返していた。対するシャガは、見るからに高価な腕輪をしていた。見た目は、安価なスチール性の物に見える気がするが、実は高価なプラチナ性である。そこに、小さな白い透明にも見える水晶が組み込まれていた。この世界で、水晶はとても高価な品物だった。オリーブは、なぜかそれを知っていた。だから、彼に対して怒りを露にしたのだろう。そんなに高価な品物を当たり前のように持っているということは、彼は上位階級の人間だということだからだ。
「まあ、そうだけどな。遊びかもしれないだろ?」
「はあ、そんなバカはお前ぐらいだよ。なにせここでのゲームは、命がけなんだからな。」
オリーブは、呆れたようにシャガを見た後大きなリングを目指して歩き出しました。
「そりゃあ、俺は遊びだけどな。だけど、いい加減止めりゃあいいのにな。ゲームの参加は、タダだけど負けたら殺されるか奴隷だ。胸くそ悪いな。なあ、お前はそうは思わないのか?」
「はっ?お前バカだろ?普通最下層の人間は喜ぶんだよ。まだ他の仕事より生き抜ける確率が高いからな。皆、必死なんだよ。お前みたいに道楽じゃない。所詮世の中金なんだよ。」
オリーブは、話しの最後にシャガを厳しい顔で見ていた。まるで何かを訴えるかのように。もしかしたら、オリーブは何か助けを求めていたんだろうか?シャガは、そんなことを考えながらオリーブの後に続いて歩いていました。
「続いてエントリーナンバー56番。そして、57番リングへ。」
この広い会場の真ん中から男性がマイクで呼びかける声がしました。その呼びかけに 応じた中年の男性がリングに上がり、マイクを持った男性がもう一度もう一人の出場者を呼びました。
「57番!57番の方は、いらっしゃいますか?」
すると、いつの間にか後ろにオリーブがリングの上にいました。
「ここにいる。」
男たちは、驚いた表情で少し後ずさりした後改めてゲームを始めました。
「あっ、しっ失礼しました。では、次のゲームを始めます。制限時間20分。では、位置について下さい。レディゴー!」
オリーブは、相手選手に向かい合うかたちでゲーム機の前に座りました。オリーブは、愛用のサングラスをしたままで画面を注視していました。その様子は、淡々としており何を考えているのか分かりませんでした。相手選手は、一度探るような目を向けていましたが、目の前にある画面に意識を移しました。ゲーム開始の合図と共に二人はすごい勢いでゲーム機のボタンを押していました。しばらくすると、時間を確認した審判は、ゲーム終了1分前の合図をしようとしました。
「後1分。」
その合図を聞いたオリーブは、落ち着いた声で答えていました。
「1分もいらない。もう終わった。」
そう言うと、さっさとその場を立ち去りました。向かいにいた相手選手は、呆然としてしまいました。その男性のゲーム機の画面には、【ゲームオーバー】と出ていました。
「はっ?えっ、ちょっと!」
審判は、慌てて止めようとしましたが、改めて彼らの画面を確認するとすでにゲームが終わっていることが分かりました。確認を終えると、すぐにゲーム終了の合図をしました。
「失礼しました。ゲーム終了!勝者57番!」
審判の合図を聞いた観客は、再び騒ぎだしました。そして、審判は相手選手を見て指示を出しました。
「では、56番の方は奥の控え室に向かって下さい。」
男は、それを聞いて真っ青になりながら逃げ出そうとしましたが、すぐに係の者に捕まり奥へと連れていかれました。
「ああ〜あ、連れてかれちまったな。手加減すんのかと思ったのに容赦ねぇな。アイツ誰か知ってるか?アイツはな、子供を三人も抱えているそうだ。お前みたいに一人じゃない。」
なぜか当たり前のようにオリーブの隣に立ったシャガは咎めるように話し始めました。しかし、オリーブは平然とした顔で言い返していました。
「だからなんだ?大変なのは、あの男だけじゃない。甘えるな!」
「うっ、だけどよ。奥さん可哀想だろ?あっあれ見ろよ。色っぽいよなぁ。アイツ助けたら俺のとこ来るかな。」
シャガは、その相手に対しにやけた顔で女性を見ていました。オリーブは、それを呆れた眼差しで見ていました。
「バカか。来るわけないだろ。大体あの男、死ぬわけじゃない。あれなら子供の一人か女房を連れて行くだろ。それで命は助かる。家族は、皆お腹いっぱい食べれるし問題ないだろ。」
オリーブは、常識を語るように淡々と話していました。シャガは、納得できないようでしたが、口をつぐんでいました。
「・・・・・・。」
そんな話しをしているすきに次々と試合は進み、ついに決勝戦となりました。もちろん出場者の一人は、オリーブです。もう一人の出場者は、意外にもシャガでした。
「へぇ、意外。頑張ったね。ここまでだけど。」
オリーブは、心底感心したようにそして、バカにしたように話していました。シャガは、それにイラついたように言い返していました。
「はあっ?そりゃあ、お前の方だ!俺が、勝つ!!」
シャガは、自信満々にそう言い放ちました。周りの者たちは、更に盛り上がりを見せていました。その様子をオリーブは、平然と見ていました。
「では、決勝戦を始めます。双方、位置について下さい。レディゴー!」
審判の合図と共に二人は、どんどんスピードを上げて打ち込んでいました。決勝戦最後のゲーム機は、旧時代の古いゲーム機でした。あまりにも古くて止まってしまいそうなものでした。二人は、集中しすぎてそんなことも気にしていませんでした。そうこうしているうちにゲームも終盤となり、最後を制したのは・・・・。
「チェックメイト。」
そう言って、オリーブは最後のボタンを押しました。
カチッ。
「あっ!まっ、待った!」
シャガは、慌てて止めようとしましたが残念ながらもうすでにゲームは終わってしまいました。
「ゲームオーバーだよ。シャガ。」
ゲーム機に頬杖をつきながらそう言いました。シャガは、ガックリしたようにゲーム機に臥せってしまいました。
「はぁ〜。くそっ、勝てると思ったのになあ。やっぱ、つえ〜なぁ。」
「別に・・・・。あんたもなかなかだったと思う。」
珍しくオリーブが、褒めたかと思うとすぐに賞金を貰って立ち去りました。
「ゲーム終了!勝者57番!勝者の方は、係の者から賞金を受け取って下さい。なお、次のゲーム開始日は、来月の10日となります。当日受付OKです。本日は、ありがとうございました!」
審判は、最後のあいさつをすると奥に消えていきました。
一方、シャガは、さっさと帰ったオリーブを追いかけていました。もちろん賞金を貰って。
「お〜い、待てよ!俺も帰るよ。」
「・・・・・あれを見ろ。」
オリーブは、急に立ち止まると、目線で合図しました。それを受けてシャガは、目線の先を見ました。そこには、上位階級の人間に少しでも気にいられようと頑張る女性の姿でした。その女性は、シャガが気にしていた人でした。女性は、胸元をひどくはだけさせあられもない風情でした。しかし、周りは何も気にすることはなく当たり前のように通りすぎていました。
「なんだよ。あれ・・・・。さっきまで旦那を懸命に見つめて応援してたじゃねぇか!」
シャガは、嫌なものを見たようにそう吐き捨てていました。
「・・・・?いつものことだろ。ほら、いくぞ。」
「ああ。」
オリーブの言葉におとなしくついて行きました。後に続きながらオリーブに質問していました。
「なあ、どこ行くんだ?帰るのか?」
「資金が、出来たからな。そろそろこのバカげた試合を終わらせる。」
オリーブは、前をまっすぐ向いてそう答えました。シャガには、何のことかさっぱり分かりませんでした。それでもついて行くのは、そうすれば何かが変わる気がしたからでしょう。
「終わらせるってどうやってだよ。」
「大丈夫だ。もう準備は、終わった。」
オリーブの表情は、柔らかくシャガを安心させるものでした。二人は、社の上まで戻り、待場まで帰ってきました。
「終わったって。なんかするのか?なら俺も力になるぞ!」
シャガは、自信満々に言いました。それを聞いて、オリーブはなぜかずっと被っていた帽子を脱ぎ捨てて彼に返事をしました。
「フフッ。なら、ついて来る?私に。」
シャガは、ずっとオリーブが男だと思っていました。しかし、帽子を取り、サングラスを外した姿はどう見ても女の子でした。外したサングラスは、なぜかシャガに渡し、帽子を被り直していました。帽子を被り直すと、意味深な笑いをして再び歩き出しました。そんなオリーブにシャガは、ボーっとして見ていました。
「どうしたの?来ないの?」
シャガは、彼女に誘われるように返事をし、ふらふらとついて行きました。
「ああ、今行く。」
シャガは、オリーブの手を取り一緒に歩いて行きました。サングラスを外した彼女は、嬉しそうに笑っていました。
「お帰りなさい。」
彼女は、ポツリとそう呟いていました。しかし、シャガにはあまり気づかれなかったようです。
「・・・・?今、何か言ったか?」
シャガは、彼女に不思議そうに聞いていました。彼女は、笑ってこう答えました。
「ううん。何も言ってないわ。それより、私の家に来て。作戦会議をしましょう。」
彼女は、シャガの手をつないだまま上目遣いにそう聞いてきました。シャガは、すぐに返事をしました。
「ああ、分かった。このまま行こう。」
二人は、ゲームを終わらせるために彼女の家に帰って行きました。
・・・・・三年後・・・・・
二人は、他の仲間と共に革命を成し遂げ、国の法を変えました。そう、命をかけたゲームはようやく終わりを迎えたのです。ゲーム事態は、そのまま続いています。もちろん、命が売り買いされることなどありません。ただし、賞金はごくわずかとなりました。しかし、時々上位階級の人間が寄付として賞金や参加賞を用意するようになりました。最下層の人々も、定職に就くことができ、皆平等に働いているようです。以前のように食べ物にも困るような人たちはいなくなってきました。
そうそう、あの二人シャガとオリーブですが・・・。実は、革命後結婚することになりました。なぜなら、子供が出来てしまったからです。ついに年貢の納め時ということですね。
そんな二人のことを少し見てみましょうか。
***
「リーフィア、ただいま!帰ったぞ!」
そう声をかけたのは、シャガでした。髪をしっかり整え、服もスーツを着用していました。そして、オリーブの方はリーフィアという名に戻っていました。また、少年のような格好から一変して若奥様となり、その腕には赤子がおりました。父親と同じ金髪に青い瞳の母親に似た子供でした。
「フフッ、お帰りなさいあなた。」
「あ〜。」
リーフィアは、嬉しそうに夫であるシャガを出迎えました。シャガも、嬉しそうに自分の妻と子を抱きしめていました。
***
さて、お見せできるのはここまでですよ。
まあ、シャガという男は、まんまと彼女に捕まったということですね。なにせ彼女はもともと・・・・。まあ、この話しはいいでしょう。それに、まだこのまま彼女たちのことをお話ししたいところなのですが。
今回は、これで失礼しましょう。
ああ、私がいつの間に現れたかって?
それは、ヒミツです🖤
またいずれ、お会いしましょう。
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