スパイシーマヨネーズ

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時間の経過と共にぼやけていた意識が少しずつはっきりしてくる。 6帖の部屋で私は『順くん』と彼の名前を呼んだ。 いくら待っても返事は返って来なかった。 ベッドからおりて玄関に向かう。 順くんが愛用しているスニーカーが消えていた。 どうやら私が起きる前にどこかへ出掛けてしまったらしい。 たぶん買い物だろう。コンビニかスーパーマーケットか、行先は分からないけどどちらも徒歩5分圏内なのですぐに帰ってくるはずだ。 私はキッチンで顔を洗い、歯磨きを始めた。 丁寧に歯を磨きながら、昨夜の喧嘩の反省をした。 全部私のせいだ。順くんは不機嫌だった私の話を全部聞いてくれた。 それにもかかわらず酷い事を言ってしまったのは私の方だった。 別れたいなんて勢いで出た言葉で、本心じゃなかった。 ……ちゃんと謝らなきゃ。 今はまだ順くんに甘えてばかりの駄目人間だけど、私はもっと順くんの彼女に相応しい人間になりたい。 優しい順くんに恩返しがしたい。だから私はまだ順くんの彼女でいたかった。 一人反省会を終え歯ブラシを洗っていると、玄関の鍵が開く音がした。 私が顔を上げたタイミングでドアが開き、順くんが現れた。 「おはよう、千依梨(ちえり)」 「順くん、おかえり。買い物?」 「うん。お昼ご飯の材料を買いに行ってた」 順くんはスーパーマーケットのロゴが描かれたビニール袋を手に持っていた。 午前11時はいつもの土曜日ならお昼ご飯を作り始める時間だ。 順くんはキッチンの空いた場所に買い物袋を置き、手を洗っていた。 「千依梨。一緒にご飯作ろう」 「私がいると邪魔じゃない?順くんが一人で作った方が早いでしょ」 「今日はそういう気分なの」 どうやら私と順くんが一緒のお昼ご飯を作る事は決定事項らしい。 ……そっか。喧嘩をしたからだ。 喧嘩した後や私のテンションが下がっている時、順くんは私に『一緒に料理をしよう』と誘って来る。 私が手伝える事は少ないけど料理をしている順くんを見るのは大好きだ。 だから私は喧嘩をした次の日の朝だとしても順くんの誘いを断れなかった。
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