スパイシーマヨネーズ

6/7
前へ
/7ページ
次へ
お喋りをしながら作業をしているうちにマヨネーズが出来上がった。 完成したマヨネーズを2人で味見した。市販の物より濃厚で、マスタードがいいアクセントになっている。私はこのマヨネーズがすごく好きだった。 「うん、いつもの味だね」 順くんが満足げに微笑む。私が隣で『私が好きなやつ』と頷くと、順くんはさらに嬉しそうな顔になった。 順くんが料理に関して手を抜いたり妥協したりしないおかげで、私はいつもこんなにも美味しいものでお腹を満たす事ができる。 本当に幸せ者だった。 マヨネーズが完成した後、私は順くんの指示でゆで卵をフォークで細かく潰し、マヨネーズや塩コショウと混ぜ合わせた。 今日のサンドウィッチは2種類。 卵とハムのサンドウィッチとアボカドと人参サラダのサンドウィッチだ。 卵とハムのサンドウィッチを作る事になっている私は食パンにマヨネーズを薄く塗り、卵サラダを敷く。 その上にハムを隙間なく並べ、ハムの上にも卵サラダを山盛りのせた。 「ねぇ順くん」 「なに?」 「昨日は、ごめんね」 私は手元のサンドウィッチを見つめながら昨夜から持ち越した『ごめんね』を伝えた。 順くんはいつだって私の為になんだってしてくれる。 何時間だって愚痴を聞いてくれたし、私が泣いたら泣き止むまで慰めてくれたし、私の為に美味しい料理を作ってくれた。 喧嘩をした次の日でもこんな駄目人間に優しくできる順くんを私はすごく尊敬していた。 「順くんに迷惑を掛けたくないし、負担になりたくない。……なりたくないけど、順くんから離れたくない。しっかりしたいのに、できないの。それが悔しくて、できない自分が私は嫌いなの」 「俺、迷惑だって千依梨に言った?」 「そのうち言われそうだから、言われる前になんとかしたくて」 「気にしないでよ。千依梨はそのままでいいの」 私は顔を上げ、綺麗に並べられたアボカドの上に人参サラダを均等にのせる順くんの横顔を見つめた。 食べ始めればすぐなくなってしまうサンドイッチを彼はこんなにも一生懸命作ってくれる。 私に美味しい物を食べて欲しいから、美味しいって言って欲しいから――彼のその思いは今も変わっていないらしい。 「俺は千依梨が迷惑だとか千依梨と別れたいとか考えた事ないよ。俺が誰かの為に何かしたいって思ったのも、できる事をなんでもしてあげたいって思ったのも、千依梨が初めてだったんだ。もっと頼っていいよ。俺は何でも真面目に取り組む千依梨が大好きだから」 突然始まった甘い言葉の羅列に私は思わず涙ぐむ。 別れたいなんて思ってない。 私はまだ順くんが好きで、順くんの恋人でいたかった。 それが本当の気持ちだった。 「順くん、ごめんね。別れたいなんて思ってないよ。私も順くんと一緒にいたい。もう二度と言わない……本当にごめんなさい」 「俺こそ千依梨が悩んでいるのに気付いてあげられなくてごめんね」 ラップに包む途中だったサンドウィッチから手が離せない私の代わりに順くんが零れた涙をニットの袖で拭いてくれた。 「千依梨、動かないで」 涙を拭いた後に順くんはそう囁き、私の唇にそっとキスを落とした。 短いキスの後、彼は『なんかキスしたくなった』とはにかんだ。 ……どうしよう、やばい、すごく好きだ。順くんが好きだ。 昨夜、順くんに触れられなかったのもあるだろう。 身体が芯から熱くなり、『触れたい』という感情が一気に膨れ上がっていくのを感じた。 「順くん、キス、もっと」 私がそう訴えると順くんは静かに私に顔を近付け、さっきより長いキスをしてくれた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加