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完成したサンドウィッチを順くんが包丁でカットしてくれた。
手作りマヨネーズを使ったハムと卵のサンドイッチ、もう一つはアボカドと人参サラダのサンドイッチだ。
サンドイッチをお皿に並べながら私が『美味しそう』と呟くと、順くんが『千依梨が作ったんだから絶対美味しいよ』と笑ってくれた。
「千依梨、ちょっと早いけどお昼にしよう。これ食べて、お出掛けしよう」
四角いローテーブルの上にサンドイッチとコーヒーが並ぶ。
午後0時前。
少し早いけど空腹には勝てなかったのでお昼ご飯にする事にした。
「なに買いに行くの?」
「もうすぐ千依梨の誕生日だからプレゼントを見に行こう」
「今年はサプライズにしてくれないんだ」
「吃驚させたかったけど、俺が千依梨の指輪のサイズを知らないから」
サンドウィッチのお皿を引き寄せ、私は顔を上げる。
順くんはテレビのリモコンを探していた。
耳まで赤くなったその横顔に向かって私は『順くん』と呼びかけた。
「指輪って私だけなの?」
「千依梨の誕生日プレゼントだし、千依梨が決めていいよ」
「じゃあ順くんもお揃いの指輪を作ろう。毎日手につけてね。ネックレスにして服の下に隠しちゃダメだよ」
「分かった。千依梨もちゃんと指輪をつけろよ」
「当たり前じゃん。どの指にしようかな~左手の薬指とかにしちゃおうかな」
「俺はそのつもりだったけど」
「……よし、食べようか」
恥ずかしさから逃れるように私は手を合わせ『いただきます』と呟いた。
まず順くんが作ったアボカドと人参サラダのサンドイッチを手に取る。
順くんは私が作ったハムと卵のサンドイッチを選んでいた。
同じタイミングでサンドウィッチにかぶりつく。
そして同じタイミングで『おいしい』と零した。
目が合うと二人共笑っていた。
昨夜の私は泣いていて、順くんは怒っていた。
今朝いつもより遅めに目を覚ました時、私の気分は最悪だった。
その憂鬱が嘘みたいに晴れていた。
美味しい物を食べると自然と気持ちが明るくなる。笑顔になれる。
美味しい物は素晴らしい。
私は順くんが作ってくれた絶品をサンドイッチにかぶりついた。
「仲直りだね」
順くんが微笑んでいる。私は『仲直りだよ』と頷いた。
悔しいけど私は順くんの料理の腕も人間性も敵わない。
せっかちな私とマイペースな彼。短気な私と穏やかな彼。
私達の性格は真反対だ。
でも一緒に料理をして一緒に食べればすぐに仲良くなれる。
順くんの綺麗な左手にはどんな指輪が似合うかな……そんな事を想像しながら、私はもう一口サンドウィッチを頬張った。
-END-
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