スパイシーマヨネーズ

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スパイシーマヨネーズ

土曜日の朝、私は他人のベッドの上で目を覚ました。 いつもと違う硬さ枕と違う肌触りのシーツ。 違う色の壁紙とカーテン。 南向きで明るい、物が少なくて整頓された空間。 ここは自分の部屋の次に居心地のいい場所だった。 ベッドボードの置時計を手で引き寄せる。 時計の針は午前11時前を差していた。 寝すぎた……嘆くようにそう後悔しても過ぎた時間は戻ってこない。 重くなってしまった身体を無理矢理起こす。 だらしない大きな欠伸を零すと、目尻がじわりと濡れるのを感じた。 すっかり遠くへ行ってしまった昨日の夜の記憶を呼び戻す。 昨日は金曜日だった。 午後8時前。 同じテニスサークルに所属している友達に大学祭の進捗確認と打ち合わせという名目で部室に呼び出された。 張り切って打ち合わせに向かったが、真面目に話し合いができたのは最初の5分だけ。 あとは誰かが買ってきたお酒を飲みながら生産性のない他人の噂話や愚痴で盛り上がっていた。 大学祭も近かったので私は何度か話し合いの軌道修正を試みたが、アルコールが入ってしまった以上まともに話す事は不可能だった。 午後11時過ぎ。 終電も迫っていたので集まりはお開きになった。 友達にこのまま誰かの部屋で飲み明かそうとしつこく誘われたが、私はそれを断った。 金曜日の夜は先約があった。大学の授業も連日のバイトも学祭の準備もこの約束があったから頑張れたようなものだ。 ソワソワしている私を見て、友達は私が飲みに行かない理由を悟ったらしい。 ニヤリと笑みを浮かべ『彼氏ね』と茶化して来た。 ……もう限界だ。私は『お疲れ様』と言い残して部室を後にした。 午後11時半。 大学を出た私が向かったのは恋人の順(じゅん)くんが暮らすアパートだった。 私と順くんは同い年で、2人とも現在大学3年生だ。 交際期間はもうすぐ2年になる。 多忙な理学部生の順くんと就活費用を稼ぐ為にバイトに精を出している私のスケジュールは3年生になって合わなくなった。 平日に会う時間を取る事ができない私達は、金曜日の夜に私が順くんの部屋に泊まりに行く事で少しでも2人きりの時間を作るようにしていた。 今週の土曜日は2人共奇跡的に何も予定が入らなかった。 つまり私が順くんを独り占めできる土曜日だった。 そんな素敵な土曜日を心待ちにしていたはずなのに、お昼前に目を覚ました私の気分は最悪最低だった。
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