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「はいぃ。
じつは私、はぐれコウモリでして…この森にはつい最近流れてきたんです。
森、あなた様の領地ですよね?
その…動物たちがすごく多くって。
恥ずかしながら、流れ着いたこの辺りをエサ場にして、細々と暮らしていたんです。
ところが_____」
我々は普段、森に住む動物や、人間に飼われている家畜から血をもらって生きているのだ。
「つい昨日のことです。ここでエサをとったいたところを、地元のコウモリ達に見つかってしまいまして…」
それは大きな雄のコウモリで、このあたりを仕切っているボスだった。
「我々にとって、エサ場となる縄張は死活問題。ましてや、群のボスなら、よそ者にエサ場を荒らされるなんて恥もいいところです。
_____殺されてしまうと思っていました」
「へえ、君たちの世界も色々あんだね」
どことなくとぼけた口調で言った彼に、私はどこか安心して、話を続けた。
「ところが彼は、怯える私にこう言いました。
“なあお前、今から通るヒトの血を吸い、オレに寄越せ。そうしたらお前を___”」
「お前を?」
「“俺たちの『仲間』に入れてやる”、と。
私は、狂喜乱舞しました。ふたつ返事で“やる”と言いました」
一息ついて、さらに続ける。
「やって来たあなた様はヒトではない、吸血鬼だということはすぐに解りました。
あいつらの取り巻きが、こちらを見てニヤニヤ笑っているのも_____」
「待てよ。それって、さっき君が地面に落ちたとき逃げてったヤツらか?」
コクン。
私は力なく頷いた。
「結局彼らは、仲間にいれてやるつもりなんてなかった。
ただ、残酷なゲームを楽しみたいだけだったんです。ボスの男には、あわよくば、“吸血鬼の血”の力を手に入れられるかもしれないという皮算用はあったかもしれませんけど」
「そこまで解っていて、何故僕を襲ったの?そのまま飛び去ればよかったのに」
私は弱々しく笑った。
「…淋しかったんです。
仲間を亡くして1年。話をする友もなく、血を分け合う恋人もなく、たった1匹でさ迷う日々は。
もしかしたら、再び“仲間”が出来るかもしれないと。
その時の私は、万にひとつのチャンスにすがったのです」
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