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「はーい、ありがとうございましたー!」
若い男女のカップルを見送り、そこでようやく、客足が途絶えた。
ふう。
深夜になってようやく一息ついた私は、チラリとウィンドウのガラス越しに外を見た。
今日は人間どもの祭のようで、ご主人様も出かけていったハロウィンとやらの仮装行列が闊歩している。
だから、お客さんも多かったんだな。
うーんとひとつ伸びをして、私はようやく、放置していた品物の陳列作業にとりかかった。
おにぎり、パン、サンドイッチ…
人間の朝食用と思われる品々を、順番に丁寧に並べてゆく。
ご主人様、毎日こんなことしてるんだ。
全く、物好きなんだよな…
吸血鬼の力があれば、何もこんなに真面目に働かなくても、チョイッと人間の記憶を弄ってやればいい。
そうすれば、家だって食べ物だってお金だって、何だって手に入るのだ。
でも、私には解ってる。
それをしたらその人間が困るから、ご主人は絶対にズルをなさらない。
ご主人様は、吸血鬼の中の変わり者。
とてもお優しいのだ。
普通の吸血鬼なら、エサとしか思っていない人間どもにも、私のようなちっぽけな眷属の末端にも。
あの日。
私たちが出会った時もそうだった_____
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