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『あの人に告白されました』
『よかったな』
『お付き合いも求められました。でも結局、断ってしまいました』
『どうして。冗談に聞こえたのか』
『いえ。あの人は本気でした。少なくとも僕はそのように感じました』
『じゃあどうして』
『わからなかったのです』
『何が』
『なぜ、異性愛者だったあの人が、突然、僕のような同性に好意を抱いたのか』
『何か問題でも?』
『僕と付き合えば、あの人は必ず不幸になります。少なくとも僕には、あの人が本来得られるはずだった幸福をもたらすことはできません。その罪を背負うには、僕としても覚悟が必要です。そして、覚悟には相応の理由が必要なのです。ですが、あの人の語る理由に僕は納得できませんでした』
『つまり、納得させてくれなかったあいつが悪い、と言いたいのか』
『悪いのは僕です。結局、僕はどこまでも臆病者なのです。愛する人を幸せにする気概もなく、無邪気で無責任な片思いに甘んじていただけの卑怯者、それが僕です。僕には、誰かと結ばれる権利はありません。そのことを今回の件で痛感しました』
『権利ならある。誰にだってある。臆病者でも、卑怯者でも、ただ幸せになりたいと願いさえすればそれでいいんだ。違うか』
『僕はもう、誰も愛しません』
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