女装レイヤー×陰キャオタク

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 あえかな吐息に夜気が震える。  ただでさえ長い冬の夜。闇に沈む寝室は、早くも淫靡な熱を抱きはじめていた。火照る肌、熱い吐息。それでもなお二人は互いを求め続ける。むしろ指は、唇は、時を追うごとに貪欲さを増しながら、片時たりとも互いを見失うまいと夜陰の中を蠢き続ける。  食事を終え、バースデーケーキを堪能すると、余韻もそこそこに英司は修を求めた。性急なのは百も承知で、しかし、あまり長く焦らせば、せっかくの修の決意が鈍ってしまう気がして。とはいえ、そのままベッドに移る真似はせず、シャワーと下準備の暇を求める修にそれらを許すと、いつになく長いバスタイムが終わるのを待った後でようやく寝室に誘った。  いっそしつこいほどのキスと抱擁で怯える修の身体を開き、ようやくパジャマのボタンに手をかけた時には、すでに満月は中天近くに昇り詰めていた。 「……ん、っ」  修の胸を寛げた手が、パジャマを左右に押しやりながら白い胸板を撫で回す。窓から差し込む月明かりを受け、仄かに輝く白い肌は、大理石のように冷たく乾いているようで、その実、触れると指先にしっとりと吸い付いてくる。  やがて指先が、主張を始めた尖りをさりっと撫でる。 「……ぁ」  漏れ出た吐息を、すかさず英司は唇で吸い上げる。  見た目は小ぶりな修の唇は、実際に触れてみるとふっくらと柔らかく、本当にこれが、あのポーカーフェイスの一部なのかと疑いたくなる。恋人として付き合う以前は、その能面ぶりに辟易したこともある修の顔。だが、実際はこんなにも柔らかく、淫靡な一面を備えている。唇だけではない。紅潮し汗ばんだ頬も、貝殻のように赤らんだ耳朶も――しっとりと涙に濡れる長い睫毛も。 「んっ……あ……」  漏れ出るくぐもった吐息に焚き付けられ、さらに英司は唇を求める。歯列を、その奥に潜む舌先を貪欲に舐め啜りながら、胸の尖りを執拗に弄った。 「ふ……ぐぅ、んっ」  口での呼吸を封じられ、苦悶の呻きが修から漏れる。その、嗜虐芯を誘う響きに欲望を掻き立てられ、なおも英司は無心で修を舐めずった。そんな英司の欲望に、修は抗うことなく懸命に応える。つい先程までキスすら知らなかった男の、あまりにも真摯な献身。この半月、英司自身も自覚しなかった欲望の蓄積を、震える痩躯で懸命に受け止める。  指先で胸の尖りを摘み上げると、またしても甘い吐息が修の喉から漏れた。 「……あ、」 「感じるか」  唇を解き、問う。問われた修は無言のまま、こく、と小さく頷いた。  大粒の瞳にじっとりと溜め込まれた涙。濡れた目尻がキスを誘い、そっと口づけると、柔らかな塩味が舌先にじわり広がる。 「本当に可愛いな、お前」  今度は修の首筋に口づけを落とす。尖らせた唇の先で啄むように吸いながら、そのまま鎖骨へ、胸板へ唇を移す。やがて胸の中心に至ると、今度は、尖りの周囲に熱を植え付けるかのようにちゅ、ちゅっと小刻みに吸った。 「あっ……ゃ……」  やはり、ここが感じるらしい。乳首だけでなく乳輪までふっくらと浮かんだそこは、見るからに美味しそうですぐにも吸い付きたくなる。これまで女性を相手に何度か経験を持つ英司だが、こんなにも初々しく、かつ淫靡な反応を示されたのは今回が初めてだ。  痩せた腰が、いやいやをするように左右に揺らめく。が、拒絶の意志は感じられない。むしろ誘い込むようなその動きは、更なる熱を求めているかにも見える。事実、胸の蕾は召し上がれとばかりに紅く尖り、いやらしいほどに熟れている。そのふくらみを誘われるまま唇に含めば、修の腰が、打ち上げられた白魚のようにびくんと跳ねた。 「ひ……ぁ」  それを英司は腰に回した片腕だけで押さえ込むと、強く抱き留めたままベッドに押さえ込む。そのままさらに尖りを吸い、舌先でぐりりと押し込めば、腕の中で修の身体がびくりびくりと小さく悶えた。 「や、も……やだ、ぁ」  前歯でそっと噛むと、ひあ、と短い悲鳴とともに修の腰が激しく痙攣した。 「……あ」  呆けた顔で脱力する修に、英司はすぐさま事情を察する。身を起こし、修の足元へ移ると、今なお手付かずのまま残されたパジャマのパンツを、ボクサーパンツごと膝下まで一気にずり下ろした。 「や……やめ、っ」  気付いた修が咄嗟に身を捩り、それを英司の視界から隠す。が英司は、そんな修の身体を無慈悲に振り向かせると、下腹部のそれを堂々と夜気に晒した。  体格相応の、お世辞にも立派とは言えない性器。引っ込み思案な本人の性格を反映してか、今は皮の中に慎ましく埋もれている。ただ、その先端はじっとりと濡れて、絶頂の痕跡をまざまざと残していた。やはり今の痙攣はそういうことだったのだろう。 「み……ないで……はずかし……」  ほとんど涙まじりに訴える修に、しかし、英司は止めるどころか余計に嗜虐芯を掻き立てられてしまう。両膝を左右にこじ開けたまま、下腹の上で慎ましく震えるそれに顔を寄せると、皮の窄まりに舌先をねじ込んだ。  痺れるような苦みが舌を襲う。が、今の英司には何よりも魅惑的な甘露だ。 「や、やめ、やだっ……や」  が、英司は止めない。そのまま舌先で器用に皮を剥くと、ようやく顔を出した先端にそっと口づける。  生まれたての赤ん坊を思わせる、可愛らしいピンクの男根。それでも、修が男であることを示す立派な屹立で、それを目の当たりにした後も、しかし、英司の欲望に変化はなかった。  やはり、そうだったのだ。  以前、ゲイDVDに感じた無関心。あれは単に、愛する対象ではなかったからだ。その証拠に、英司の雄は早くもボクサーパンツの中でぱんぱんに張りつめている。  ついに男根全体を口に含む。根元からぎゅっと吸い上げると、修の口から形容しがたい悲鳴が漏れた。 「ひぐぅ、あ」  痛いのか。だが、本当に痛ければ力づくで突っぱねるはずだ――そう自分を納得させながら、英司は繰り返し、繰り返しそれを吸い上げる。 「いや、んぁ! あっ!」  悲鳴に、ついに嗚咽が混じりはじめる。それすらも、今の英司を引き留める役には立たなかった。むしろ、もっと泣かせたい、いろんなものを溢れさせたい、そんな欲望ばかりを英司の胸に容赦なく注ぎ込む。  膝の抵抗が緩んだのを見計らい、一方の手をふたたび修の乳首に伸ばす。口で雄を慰めつつ指先で紅色の尖りを捏ね回すと、修の唇から、女性の口からさえ聞いたことがないほど淫らな悲鳴が溢れた。 「あ、んぅ! い、やぁ……ぁ……ん」  吐息の合間から漏れる甘い喘ぎは、もはやプロのそれだ。が相手は、ただでさえ演技力など薬にしたくとも持ち合わせのない男で、おそらくはこれも素の反応なのだろう。  いやらしい。  なのに、どうしようもなく可愛くて、愛おしい。 「や、やっ……だめ!」  修の手が、不意に英司の肩を突っぱねる。が、汗にぬめる手はずるりと滑り、まるで用をなさない。一方でその腰は、何かを追い立てるように激しく揺れていた。 「や、やっ、でる、だめ、はなれ、てっ」 「駄目」  焦りを含む修の懇願を、英司は冷ややかに突き放す。大腿に腕を巻きつけ、完全にホールドしながらさらに根元まで銜え込んだ。そのまま口腔で、舌と頬の裏を使いながら丹念に扱き上げる。同性だからこそ知悉する、最も感じるやり方で。 「やめ、や、ああ」  絶叫と絶頂はほぼ同時だった。喉奥に叩きつけられる粘性の熱。それを英司は、吐き出すことも、嫌悪することもなく一気に飲み下す。夏コミの頃まで異性しか愛せなかったことが、今では嘘のようだ。 「ご、めんなさい……」  汗とよだれ、涙でどろどろの顔で修は詫びる。達しすぎて力が入らないのか、切実な気持ちは伝わるのに、その顔はどこまでも緩み蕩けている。 「何で謝るんだよ」 「だ……だって」 「俺がやりたいからやったんだ。お前は、何も悪くない」  よだれまみれの唇にそっと口づける。諸々の体液で汚れた二人の唇は、抵抗のそぶりすらなく重なり、蕩け合う。噛みつくように互いを求めながら、憚ることなく淫らな音を夜陰に響かせた。 「……どうして」  その、貪欲なキスの合間から喘ぎがちに修は問う。 「どうして、英司は……こんなに、僕を……」 「何言ってんの」  痩せた腰を抱き寄せると、今度はその首筋を軽く吸う。汗で濡れた首筋は苦く塩辛く、しかし、今はそれさえも堪らない滋味に感じられた。 「こんなにエロい顔されて……我慢なんて、無理だっつうの」  紅く色づく修の耳朶を唇でそっと食む。それだけでも感じてしまったのか、修は甘く呻きながらびくりと跳ねた。 「ぼ……僕も」  その修が、涙目のまま英司に懇願する。 「英司を気持ちよくしたい……女の人みたいに」  不意に腕を掴まれ、はっとした時にはもう修の手は英司の手をそこに誘いはじめていた。汗と精液でべとべとに穢れた内股の、さらに奥深い場所。そこは、さすがの英司も未知の場所で、未だに単なる排泄器官という以上の意味を持たない部位だ。それでも修は触れて欲しいらしく、怯えがちに、だがまっすぐにそこに誘うと、今度は英司の指を取り、尻肉の割れ目にそっと押し当てた。  初めて触れる同性のそこは、女性器よりも柔らかく濡れていた。 「お前、これ、」 「だ、大丈夫!」  英司の驚きを嫌悪と取ったのだろう、慌てた声を修は被せる。 「ちゃんと、中も、洗ってある……濡れてるこれは、ただの……ジェル」  喘ぎ喘ぎ答える修は、自分で誘った英司の指に早くも感じているらしい。そんな修の反応に、誘い込まれるように指先を進めると、修の言うジェルらしきものがぐちゅりと淫靡な音を立てた。 「っ……は、」  二度の吐精で今度こそ力尽きた修の性器が、ゆるゆると芯を取り戻す。  本来性器ではない場所で、最初から、ここまで感じるのはさすがにおかしい――いや、それを言えば、中を洗ってジェルを仕込むという芸当も、それなりの慣れがなければ不可能だろう。  ああそうだ。こいつは昔からそういう男だった…… 「お前……今日のためにここ、開発、して……?」 「開……発?」  濡れた瞳をのろりと向けながら修は問う。 「よく、わからないけど……僕は、男だから、普通じゃ……気持ちよく……できない」 「……男だから」  ああ、目に浮かぶ。一人、夜の生活への不安に震える修が。元異性愛者の英司を失望させたくなくて、必死に必要な情報を集める修が――そうした情報をもとに、恐怖や痛みと抗いながら黙々とここを開発する修が。 「そうか……ありがとうな。けど……」  もう一方の腕で修の腰を抱えながら囁く。 「女装レイヤーの俺が言うのも変だけどさ……無理に女の真似なんかしなくてもいいんだぜ?」  なぜなら英司は、今は篠山修ただ一人を愛していて。  その愛に、今や性別など関係ないのだから。  やがて指先が小さなしこりを捉える。試みに指の腹で撫でると、修の喉からひっ、と短い悲鳴が漏れた。 「い、痛いか?」  慌てて指を抜き取る。すると修は、そんな英司を安心させるようにゆるゆるとかぶりを振った。 「ちが……す、すごく、痺れて、ぞくぞく……した……こんなの、初めて……」  なるほど。どうやら修はここで感じるらしい。そして、それは今の修にとっても未知の感覚らしかった。長い睫毛に縁取られた瞼が、物音に驚いた猫のそれのように茫然と見開かれている。 「あの……僕、どうなって……」 「いいんだ」  ふたたび唇にキスをする。そうして口唇を宥めながら、英司は空いた一方の手でベルトのバックルを解き、前を寛げる。ボクサーパンツを下ろすと、それまでパンツの布地でぎちぎちに縛められていた英司の自身が、待ち侘びたように夜気の中に飛び出した。  弾みでそれが修の内股にぶつかり、驚いた修がひっ、と短く悲鳴を上げる。 「な、何――えっ」 「見えるか」  修の目にも映るよう、屹立を掲げながら問う。修は何も答えなかった。ただ、凍り付いたように固まったまま英司のそれを見つめている。 「これで、今からお前と繋がる。……大丈夫か?」 「……ん」  掠れた声で答える修の頬を、英司はそっと撫でる。  あらかじめ用意していたゴムを、すでに痛いほど勃ち上がったそこに装着する。そうして準備を整えた先端を、英司は、修の肉襞にそっと宛がった。 「……いいな?」  返事は待たなかった――否、待てなかった。  物欲しげにひくつく肉の蕾は、英司に待つことを許さなかった。先端がそこに触れた時には、もう、英司の刀身は早くも中へと埋められていた。 「あ……ぁ」  蕩かすような熱が芯を包み、甘痒い痺れが全身を突き抜ける。こんな悦びが、感動が存在すること自体信じられない。異性を相手にした時でさえ、これほど強く感じさせらることはなかった。  こんなにも……修は愛してくれている。 「……痛むか?」  すると修は、ぎこちなく笑いながらゆるゆるとかぶりを振る。 「でも……焼け、そぅ……英司の、すごく……熱い」 「偶然だな。俺も……蕩けそうだ」  頭は今にも沸騰しそうだ。それを紙一重の理性で堪えながら、おもむろに、慎重に英司は腰を動かす。  いくら自慰で慣らしたと言っても、相手を得てするセックスとはわけが違う。そうでなくともここは、本来は別の用途の内臓なのだ――そうやって自制を利かせるのも、しかし、次第に苦しくなってくる。修の意志はともかく、中は誘い込むようにぢくぢくと蠕動しながら英司の芯を舐め啜る。  まるでさっきの逆襲だ。ここまで責め立てられて、なお理性を保つのはむしろ苦行に近い。 「悪い」 「……え?」 「もう、これ以上は……むり」  ついに白旗を上げてしまうと、英司は修の両膝を高く掲げる。そのまま肩に乗せると、さらに深く繋がったそこへ一気に雄芯を叩き込んだ。 「ひ、ぁ!」  ぎちぎちに張った鰓が、修の中で例のしこりを擦り上げる。より硬く締まる孔に、さらに英司は二度、三度と烈しく雄を叩き込んだ。  無茶は承知だ。修にも気の毒だとは思う――でも。  それでも止まらないのだ。止められない。修の熱を求めることを。 「修……っ!」 「……英司」  英司の背中を、震える腕が掻き抱く。唇を合わせ、なお激しく雄芯を叩き込みながら、一気に絶頂へと駆け上った。 「あっ、んっ……や、あっ!」  蜜を掻き回す卑猥な水音と、肉と肉とがぶつかる乾いた音とが夜陰を穢す。昂る吐息。淫らな喘ぎ。シーツが擦れる衣擦れの音と、遠く夜風に乗って届く踏切の遮断機の警報音。 「……愛してる」  ぞくり背筋が痺れて、男なら誰しも覚えのある熱が雄芯を駆け上がる。やがてそれはゴムの中で爆ぜ、英司の芯をしとどに濡らした。その熱に感じたのだろう、ぎゅっと肉が締まったかと思うと、次の瞬間、修の先端から三度目の精が放たれる。  ぜいぜいと上下する腹に、胸板にぶちまけられたそれが、月明かりを浴びて冴え冴えと輝くのを英司は茫然と凝視した。  ――感じて……くれたのか。 「修」  抱き寄せ、その肩に深々と顔を埋める。その濃密な汗の匂いに、早くも欲望を蘇らせつつある自分を皮肉に感じながら。 「疲れているところ悪い……けど……まだ、足りないんだ……」 「……えっ」 「いいか?」  英司の問いに、無言のまま修は頷いた。  その後のことは、英司もよく覚えていない。ただ、無我夢中で求め合ううち、気付くと、窓越しの空はすっかり白んでいた。
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