女装レイヤー×陰キャオタク

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『先日は、大変失礼いたしました。せっかくわかめ子さんが気遣ってくださったのに、無下に突っぱねてしまったことを、今は大変申し訳なく感じています。  僕が彼を愛する理由、それは先日申し上げた通りです。確かに、言葉にすれば凡庸な条件ではあります。ただ、凡庸だからこそ逆にそれを体現できる人間は稀有なのだと僕は思います。誰かに優しくする。他者を他者のまま尊重する。どちらも簡単なようで難しい。それを、あの人は体現してくれている。そんな彼を、僕は素敵だと思っています。  僕は今、ある仕事のために海外に来ています。  それは本来、僕に任されるはずのない仕事でした。プロジェクトが立ち上がった時、リストに僕の名前はありませんでした。当時の僕は、未だに何の成果も上げられていない課内のお荷物で、だから、こうした重要な仕事から弾かれてしまうのは仕方のないことだと割り切っていました。  そんな僕を、プロジェクトに推薦してくれたのがあの人です。それまで何の成果も上げられずにいた日陰者の僕を、必ず役に立つからと上司に推薦してくれたのです。結果として僕は、この仕事で自分の知識を大いに役立てることができました。  今の僕があるのは、あの人のおかげです。  あの人が見つけてくれたから今の僕がある。あの人があの人だったから、僕は僕でいられる。うまくは言えませんが、僕にとってあの人はそういう人なのです』
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