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なんだ――なあんだ。どうということはなかったのだ。
鮟鱇だって、大きくなれば天敵はぐっと少なくなる。海鳥を食べられたのだ、私はそんな簡単に食べられようが無い。流石にホオジロザメのような大型のサメは格が違いすぎるとしても、小型のサメ――ネコザメくらいなら飲み込めるかもしれない。私は海鳥が吐き出した空気を、口とエラから捨てた。捕食者なのだ。私だって。サメに目を付けられさえしなければ、悠々自適に暮らせるのだ。なんで今まで気づかなかったのだろう。私は確かに、天才ではない。特別要領がいいわけでもないが、仕事ができないほうではない。私に足りなかったのは、日々を楽しむことなのだ。
最近、健康のことを気にしすぎて、コンビニ飯ですら自由に選んでいなかった。昔から、友人だって周りや親を気にして選んだ。もう、私の尺度で、鮟鱇の尺度で選んだっていいんだ。太陽が見たくなった。浅い場所に来たのもあって、今日の太陽は身近で、いつもより大きかった。
——判断ミスをしたら私の命が無くなる。
酷く単純明快な自分の責任の取り方だ。私は気付く。人間の私は、ずいぶん守られた環境にいた。その環境を守るため、私は自分で自分を縛っていた。もう、環境に自分を守らせなくてもいい。そう思えた。自分の身を置く場所は、自分で選べばいいだけだ。海鳥のお陰で、今日の私は必死に食事をとらなくていい。私は疑似餌を太陽に向かって振る。誰も彼も照らしてしまう、究極の平等。
私は太陽が嫌いだった。肌を汚くするし、その明るさが目に刺さるから。紫外線のケアをしてもしなくても、お局たちはやいのやいのと言ってくる。お局たちの大敵で、私にとっても面倒なもの。でも今なら、ちょっとくらいは好きになれる気がした。
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