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ー会社裏の岩ちゃん食堂ー
「サバ味噌おまたせ〜。」
食堂の看板娘が直哉の前に定食を置く。
「いや〜コレコレ!」
無邪気にがっつく直哉を、鯛茶漬け啜りながら日菜子は見ていた。
日菜子と直哉の出会いは、大学時代に遡ることになる。
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大学で2つ上の先輩。同じ学部で、同じ研究室。
修二と直哉のコンビは、大学でNO.1、NO.2を争うほど女子に人気で、イケメン、長身、秀才の3つを兼ね備えた有名人だった。校内では男も女も知らない人はいなかったと思う。
修二先輩は少し神経質で、逆に直哉先輩は豪快。
その2人のコントラストが絶妙だった。
でも私にとっては苦手なタイプの2人…。
特に直哉先輩。
ちょっとガサツで、態度がでかい。
研究室共有のPCを勝手に外人女性の露な姿の待ち受けに変えたり、自分の食事を後輩の男子に怒鳴って買いに行かせたり…。
自分勝手。いっつも笑ってて声がうるさい…。誰彼構わずカッとなると直ぐ食って掛かる。
一度教授にも食って掛かって、危うく退学処分になりそうだったとかなんとか…。
「あんなヤツどこが良いんだろう…。」
私は絶対に関わらない…そう思っていた…。
ある日の大学の帰り道。
課題がなかなか終わらなくてちょっと遅くなってしまった。
すっかり暗くなって誰もいなくなった帰り道を1人駅に向かう。
校門を出た所の交差点で信号待ちをしていると、雨がシトシトと降ってきたので私は折りたたみ傘を開いていた。
キキーーーーーーーッッッッ
突如、急ブレーキを踏む音がした。
顔を上げると目の前にトラックが停まっており、運転手らしき男が降て来て前方を確認している。
「あ〜あ。」
そう言って運転手はトラックに戻り、エンジンを掛けて行ってしまう。
前が開けて見えた交差点の真ん中には、猫が血だらけで倒れていた…。
アッと私は息を飲み、手で目を覆ってしまったが、状況を確認するために恐る恐るもう一度前を見ると
猫が2匹いて、1匹は大きい猫…血だらけ。もう1匹は小さい子猫。
子猫は大きい猫の側を離れない。
私はどうしたら良いのか分からなくて固まっていると、信号がまた赤になってしまい目の前をまばらに通る車が2匹を避けて通っていく。
大きい車が目の前を通っているのにもかかわらず、子猫はニャーニャーと必死に鳴き、親猫から離れずにいた。
(せめて子猫だけでも助けなきゃ…。)
そう思い信号が青に変わるのを待つ。
青に変わった瞬間、私の横をスッとひとりの影が走って行った。
そして血だらけの猫と子猫を抱きかかえ、一人こちらに引き返して来る。
すごく目つきが鋭くて
いつもと表情が違う
直哉先輩だった…。
彼は両手に猫を抱えたまままっすぐ前だけを見据えて、私の横を通り過ぎ大学の校内に戻って行った。
パーカーのフードを被っていたので顔が一瞬しか見えなかったけど、殺気を感じる様な表情で少し怖かったが、それでも私は心配で先輩を追いかけた。
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