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先輩は木の影に猫を下ろし、しゃがんでしばらく様子を見ていた。
徐々に雨が強くなってきて、先輩のパーカーのフードがしぼんでいく。
私は後ろからその姿をただひたすら見守った。
そして急に先輩が立ち上がったかと思うと、前方に有った木の枝でガッガッと地面を掘り始める。
穴が空いた場所を今度は手で掘って行く。
私は居ても立っても居られず、傘を捨てて側に行き一緒に土を掘った。
急に人が来て先輩は少し驚いていたが、直ぐに前を向いて黙って2人で穴を掘った…。
「…はぁ、はぁ。よしっ、こんくらいでいっか。」
そう言って先輩が立ち上がり、泥だらけの手を払いながら血だらけの母猫と子猫を連れて来た。
「アンタはコイツ持ってて。」
ポイっと子猫を私の胸に乗せると、
静かに母猫を穴に寝かせて、上から少しずつ土をかけた。
小さな山が出来上がり、合掌した。
私も目をつぶりしばらく冥福を祈った…。
「手伝ってくれてありがとう。」
立ち上がりそう言って先輩は私の胸からヒョイっと子猫をつまんでフードに入れた。
その顔はさっきと真逆で…
優しくて、悲しくて…
目は潤んでいて、雨なのか、涙なのか…分からなかった。
「見て、めっちゃ泥だらけ。どうしよっか?」
急におどけて、先輩が泥だらけの服を私に広げて見せた。
お互いにズブ濡れだし、泥だらけだし、最悪な格好だった。
「ふふふ。」
ブルブルと手足を振る姿がおかしくて少し笑った。
「ははは。」
先輩も私の笑った顔を見て嬉しそうに笑った。
「ねえ、家どこ?」
「…電車で40分位です。」
「そっか…どうしよっか…。」
「…大丈夫です。このまま帰りますから。」
「うーん…。」
大げさに大の字に脚を開いて、腕組みしながら顔を傾げて悩むのが可愛いくて、
更にフードから頭に登った子猫がニャーと鳴いて吹き出してしまった。
「…何笑って?オレそんなに変かな?」
「いえ…大丈夫です…。」
「あのさ!」
ポンと先輩が手を叩く。
「おれん家、直ぐ近くだからシャワーしてって!!!」
「えっ!!」
「うん!そうしよ!!」
そう言って私の手をぐいっと掴んで歩き出した。
「…ちょ!」
「大丈夫!!何もしないから!」
「いや、着替えもないし…。」
「おれん家洗濯乾燥機あるから洗ってあげる!」
グイグイ引っ張られて連れて行かれる。
「でも…。」
先輩の背中を見ながら、言葉を探していた。
「大丈夫!絶対何もしないから安心して!
…それにコイツも居るし、早く綺麗にしてあげたいから…。」
そう言って猫を指差し、私を引っ張ってグングン歩いて行った。
私は大人しく手を引かれて、仕方なくついて行くことにした。
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