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エピローグ
「──弥生!!」
目が覚めると、其処には目に涙を浮かべたお母さんの顔があった。
「弥生! 目が覚めたのね!」
「お……あ……」
「弥生……あぁ、良かった……本当に良かった……」
お母さん、と呼びたかったけれど、全身が痛くて出来ない。
でも、その痛みを感じる事すら何だか嬉しい。
──生きてるんだ。私……。
「弥生、ごめん。ごめんね……! 辛い思いさせちゃって、ごめんね……!」
「お……か、さん……あや、らないで……」
お母さんは「喋らなくていいのよ」と言って私の手をぎゅっと握りしめた。
私は、私が目を覚ましてこんなに喜んでいるお母さんを置いて死んじゃうところだったんだ。
もっと、お母さんを悲しませちゃう所だったんだ。
そんな私を引き上げてくれたのは、あの幸せそうな家族の姿と、それを思い出させてくれたお母さんの声のお陰だった。
「あり、が、とう……」
私は、あの時捨てずに済んだ命をもう粗末にしないと心に決めた。
その後、私は誰も自分の事を知る人がいない土地に引っ越した。
お母さんは男遊びを辞め、昼間のパートを始めた。
前に比べて裕福な生活では無いけれど、帰ったらお母さんがいる生活はとても幸せだった。
新しく入った学校で友達も出来、楽しい学生生活を過ごした後、私は直ぐにOLとして働き始めた。
その会社で出逢った人と恋に落ち、そして私はこうして今、協会の前で真っ白なドレスに身を包まれ、愛する人と永遠の愛を誓おうとしている。
私は空を見上げ、あの日の事を思い出していた。
あの列車に乗る前には、まさかこんな日が来るなんて思ってもいなかった。
絶対にこの先、良い事無いって思っていた。
「生きていれば良い事がある」なんて迷信だと思っていた。
だけど、そんなのただの私の思い込みだった。
人生、先に何があるか分からない。
だからもし今辛くても、死んでしまいたいくらい苦しくても、生きていればいつかきっと、良い事がある。
そんな望みを持って生きていれば、必ず幸せになれる。
私のように。
──あの時、列車を降りて……本当に良かった。
私は愛する人と腕を組み、新たな人生へと歩みを進めた。
おしまい。
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