きっとソレに、答えはない。

2/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
――今日こそは!愛の個人レッスンやってもらうんだ!頑張れよ私ィ!  謎の気合の入れ方をして一人燃え上がる私は、もはや一目惚れ以前の問題で完全に少女漫画の恋する乙女と化している。過去の自分が知ったら“どうしちゃったんだオマエ”と確実にドン引きされたことだろう。いや分かってはいるが。一度火がついたら止められないのが恋愛感情というものだ。とにかくアタックしてアタックして、強引に押し倒すまで持っていかねばなるまい。肉食系にならなければ、あの美味しい獲物は絶対に手に入らないという確信があるのだ。  なんといっても、彼は男女共に非常にモテる――恋愛でも友愛でも全く関係なく。生真面目を具現化したような堅物な大久保先輩が慕っているくらいなのだから、そのへんもうお察しだろう。このまま放置していれば、どこの馬の骨ともわからぬ女にかっさらわれる未来は目に見えているのである。 「あの、斎藤さん?何か用事かな?」 「いぎっ!?」  そして、私は自分から声をかける前に、御影先輩に発見されてしまうことになるのだった。話を聴いて立ち去ろうとしていた大久保先輩まで目を丸くしている。 「な、な、な、何でもないですううううう!」  ミッション失敗。この流れで個人レッスンお願いします~なんてこと言えるはずがない。私はコメディのような慌てふためきぶりで、その場から撤退したのだった。  恋の道は、あまりにも険しいようだ。なんといっても、ヒロインがポンコツ性能すぎる。  ***  とは言っても。  攻略対象そのものの難易度は、さほど高いものではないのだ。恋愛までもっていくには時間がかかるとしても、御影先輩はツンデレ系ではないし、恋愛に奥手という雰囲気でもない。なんといっても誰に対しても優しくフレンドリー。同じパートの後輩という美味しいポジションを利用すれば、女友達くらいの地位まで持っていくのはさほど難しいことではないと思われた。  楽器を整備するための道具が欲しいと言えば一緒に買いに行ってくれるし、楽譜の読み方だってイチから教えてくれたのは先輩である。練習用の、初心者向け楽譜をオススメしてくれたり、時には本当に一対一でのレッスンも付き合ってくれた。  その甲斐もあってか、入部して三ヶ月がすぎる頃には、私の腕も少しずつ上達しつつある。トロンボーンや吹奏楽に関しても、単なる恋愛のためのオマケではなくなりつつあった。みんなと一緒に演奏し、大会を目指して頑張るのは本当に気持ちがいい。何より、出来なかった曲ができるようになる達成感はたまらないものがある。  文字通り、キラキラした青春の日々だ。超ド級の初心者であったがゆえ、先輩に悩み相談しやすかったというのも非常にラッキーなポイントである。周囲も、トロンボーンパートの新入生のうち唯一ど素人だった私にパートリーダーが構うことを不自然に思われることもなく、毎日は充実すぎるほど充実して過ぎていったのである。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!