きっとソレに、答えはない。

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きっとソレに、答えはない。

 少女漫画もラブコメ漫画もそれなりに読む私だが、どうしても腑に落ちないことが一つある。それは、“一目惚れなんてそうホイホイあるもんなの?”だ。  確かに誰にだってある程度容姿の好みというものはあるだろう。私の場合、ジェニーズのストーム所属の松田君が大好きだ。そこそこ年齢は言っているはずなのにそれを感じさせない若々しさ、眼の美しさに小柄で童顔なところ、おまけにみんなとの対応が非常にフレンドリーで付き合いやすそうなところとか全部含めてどストライクである。ああ、ここまで言ってしまうと、それは容姿だけの好みの話ではなくなってしまうかもしれないが。  まあとにかく。容姿がいくらカッコいいと思っても、それで恋まで落ちるというのは――あまり現実的なものではないな、と思うのである。特に、少女漫画によく出てくるような、いきなり俺様な態度を取ってくる男子とか、ろくに知りもしないのに妙に親切な男子とか、かえって警戒心を抱かないものかと感じるのだ。そんな相手に、果たして出会っただけでときめいたりするものなのか。あるいは、最近の女子はそういう存在が多いだけで、私がやや乗り遅れているだけなのか。――一応身分は、女子高生であるはずなのだけど。 ――って、思ってたんだけど。……今の私は、マジで何をやっとるんだ……。  で。ここまで大前提として一目惚れを否定しまくってきたというのにだ。今、私は必死で、一人の男子を追いかけ続けているのである。音楽室、ピアノの影からこっそりそちらを見ている私は、場所が場所なら完全に不審者になっていたところだ。  入学式の日、私は彼に出会ってしまった。  吹奏楽部の先輩である、飛鳥井御影(あすかいみかげ)先輩。名前も全体的にカッコいいが、そりゃあもう見た目が素晴らしい。すらっと背は高いのに、上に乗っかっているのは小さくて可愛いお顔と来ている。私好みの童顔に大きな眼。ちょっと中性的で、やや細身。さらには声も高すぎず低すぎずで非常に落ち着いていると来た。ついでにちょっと髪の色が明るめなのもグッド(地毛らしいが)。はっきり言おう、好みが服着て歩いているとはまさにこのことである。  どうしようもなく、一目惚れだった。そしてその気持ちは、実際に話してみても萎えるどころか募る一方である。  私は御影先輩を追いかけて、一ヶ月前――楽譜も読めないくせに吹奏楽部に入ってしまった大馬鹿者だった。今もこうして、トロンボーンの練習を見てもらいたいという口実で、しれっとお近づきになろうとしているのである。  御影先輩は、同じくトロンポーンパートの二年生、大久保恭平(おおくぼきょうへい)先輩と一緒にいることが多い。同じクラスでパートも一緒、気も合うの親友だと有名だ。御影先輩は小学校のブラスバンドからトロンボーン一筋でやってきている反面、大久保先輩は高校からのスタートである。教えて欲しいことが山ほどあるだろう。今も熱心に、難しい箇所の吹き方を教わっているのが見えた。今度大久保先輩はソロパートを任せられることになったので、余計熱が入っているのだろう。仕方ないこととはいえ、おかげさまで最近は話しかけるチャンスがめっきり減ってしまっている。
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