死神の家

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弟が病気で他界してから数年。友人に勧められて始めた、カメラで写真を撮るというその作業はいつしか趣味になっていた。両親も病気で既におらず、私だけが残ったというのに何を撮ればいいのだと言えば、嫁さんを貰って新しい家族との写真を撮る時の為の練習だと友人は笑って、高そうなカメラを押し付けたのがきっかけだったか。 未だに新しい家族はいないが、それは私の中で、もはや日常の一部となっていた。 ある日、カメラで写真を撮っていると、私は不思議な現象と出会った。 人一人いないその場所で、いつも通りレンズを覗けばそこには美しい人がいた。20代後半位だろうかというその人は、豪華絢爛ではない質素な白いワンピースを身に纏い、真っ白なつばの広い帽子を被ってそこに立っていた。艶やかな黒髪と、整った美しい容姿は、まるで女神でも見ているのではないかと思った程だ。 パシャリ。 丁度紅葉の季節。真っ赤なモミジや黄色いイチョウに囲まれたその場所で、私は思わずシャッターを押した。薄手のワンピースは秋を一切感じさせず、風に靡いた木々に比べ、女性の周りだけはやけに静かだ。だが、それらの違和感を凌駕するほどの美しさがそこにはあった。 「あの…」 レンズから目を離し、その女性に話しかけようとカメラを下げる。 「あれ?」 が、そこには既に女性の姿はなく、風に吹かれてひらりとモミジの葉が落ちただけだった。幻覚でも見たのかとメモリーに入っている写真を見てみれば、やはりそこには彼女がいて、こちらを見て微笑んでいる。 ___しかし、いくらそこを見ようとも一向に彼女の姿は見えない。 きっと目を離したあの一瞬でどこかへ行ってしまったのだろうと、これ以上考えないようにしながらその場を去った。
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