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くたばれ初恋
誰よりもかわいい顔をして、食べるときは熊みたいに大口を開けて白い歯を剥きだしにするのだからイヤになる。がぶり、もぐもぐ、ごくん。その繰り返しを、私は彼女と過ごした年月の分だけずっと見てきた。
小さい頃から、誰よりも近くで。
「それで、また大食いが原因でフラれたの?」
「最初はかわいいと思ってたけど、見てたらだんだんこっちの食欲がなくなってくるとかいう、い・つ・も・の!」
3つ目のハンバーガーにかぶりつきながら、彼女はポロポロこぼれる涙を拭いもせずに私を見ていた。もぐもぐ、ごくん。飲み下した喉の先はぺったんこで、その華奢な胸がもう何度目かの失恋の痛みに軋んでいるのが、私には透けて見えるようだった。
シェイクのストローをくわえながら、私はふうんと息を漏らす。
「そんな男、とっとと餓死してしまえばいいのに」
ごくん、がぶり。永遠にループするその光景と、彼女の口の中に吸い込まれていくハンバーガーとポテトとコーラは、私にとってなによりの幸福だった。誰よりもかわいい顔をして、誰よりも私の近くにいる彼女は少しだけうつむいて口を歪める。
「ねえ、私の……ポテト、食べてもいいよ」
「私はこれでじゅうぶん」
「でも、また痩せたんじゃない?」
「そう? あんたほどぺったんこじゃないと思うけど」
「胸の話じゃなくて!」
憤慨した彼女は鼻を鳴らして、また熊みたいに大口を開けてハンバーガーにかぶりつく。だからイヤなのだ。がぶり、もぐもぐ、ごくん。下唇についたソースを指先ですくい取り、彼女はそれをぺろりと舐める。
誰よりもかわいい顔をして。
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