清水優馬

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結局千尋に主導権を握られたままのセックスが終わり、スマホを握りしめたまま眠りこんだ優馬は、その晩ひどく長い夢を見た。 はじめは小学生だったころの夢。ただ千尋の横顔を見つめていた自分。千尋は一度も優馬を振り返りはしなかったが、そのことに優馬は深い安心感を得ていた。毎日飽きもせず。 それから、一年と少し前、千尋と再会した日の夢。 清水? とあっさり優馬の名を言い当てた千尋は、どもりどもり誘う優馬にあっさり従い、一時間後にはマンションの部屋にやってきた。 『でかくなったな。』 と千尋は言った。小学生の時優馬は背の順で前から数えた方が早かったのだが、中学時代にぐんと背が伸び、188センチまで成長していた。 優馬はなにも答えられず、おたおたと千尋を室内に招き入れた。 『帰らないでください。』 と死ぬ気で縋ったのはそれから一時間くらい経った頃だったか、それまでろくな会話もなくただビールを消費していただけだったので、千尋はいささか驚いたように優馬を見た。 断られる、と思った。だから、テーブルの上に投げ出された彼の腕をとっさに掴んでいた。 必死だったのだ。黙ったまま向かい合っていた一時間、千尋の顔さえ見られずに俯いていた。その優馬の胸の中で、焦燥感だけがむくむくと膨らんで、勝手に唇から溢れ出していた。 『心配だな、お前。』 苦笑した千尋はそんなことを呟き、いいよ、帰らないよ、と言った。それでも不安で、優馬は彼の腕を離せないままその後の一時間を過ごした。千尋はそのことについてなにも言わなかったし、腕を掴まれていることに気が付いていないかのように平然と酒を飲んでいた。 その空気が崩れたのは、千尋のスマホが着信音を立てた時だった。 『帰らないで。』 優馬は千尋の腕をがむしゃらに引き寄せた。千尋はさすがに若干優馬の様子をいぶかしむようなそぶりを見せたが、掴まれていない方の手でポケットからスマホを取り出し、電話に出ようとした。それに耐えられなかった優馬は椅子を蹴り倒すように立ち上がり、千尋の全身を椅子ごと両腕で抱え込んだ。 『なに、どうしたの。』 それでもなおさして動揺もせず、千尋は優馬の肩をさすってくれさえした。自分の情動にいっそ混乱した優馬が、千尋の身体をぎりぎりと強く抱きしめると、彼は諦めたように全身の力を抜いた。そして、淡々とした指先でシャツのボタンを外し、自分の身体を優馬に差し出したのだ。どこにも行かないから落ち着けって、とだけ呟いて、あっさり。
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