優しさの味

6/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 次の日の朝、カノやニオには 「何で泣いてたの?」  ときかれたけど、お母さんに軽くしらかれて去って行った。お母さんやお父さんが何もきかずにいてくれた。  コウは今日も休みだった。  昨日すごく泣いたせいか頭が痛かったから、私はお母さんに休んでいなさいと言われた。  私が起きたとき、となりでコウが私のするはずだった仕事をしてくれていたので、おどろきといっしょにコウの優しさを感じた。 「ごめんね。私のせいで代わりに仕事をさせちゃうことになって」  そう言って私は謝る。  するとコウは全然いいよ、と言って首をふった。 「そういえばさ」  コウが急に口を開いた。 「なんで昨日泣いてたの? 僕の作った夕飯、そんなに不味かった?」  夕ご飯はまずくなかった、いや、むしろおいしかったけど、理由、話したくないなぁ。とか思いながら何も言えずにいると、 「やっぱ僕の料理、不味かったか……」  うつむいて少し悲しそうなコウに私はあわてて 「ううん! そんなことないよ!?」  って、フォローしようとしたけど、全然フォローになってない気がするなぁ……。  でもコウはそれ以上何も言わずに 「昼ご飯作ったけど食べる?」  とだけきいてくれたことが嬉しかった。  その日の昼ご飯は海でとれた貝で作ったお汁とこの前の残りのウサギの肉を使った料理だった。  私たちは黙って食べ始める。  するとコウが話しだした。 「僕さ、一週間後結婚するんだ」  もうすぐ結婚するとは知っていた。でも、 「辛いんじゃないの?」  無意識に、そうきいていた。 「何が?」  ときかれて、私は無意識のうちに答える。 「結婚。もしかしたら、コウ、辛いんじゃないかなって」  そのときの私は、ひどく落ち着いていた。 「本当はさ……」  コウは言った。 「少しだけ辛い。行きたくないって気持ちもある。でもね? 僕は、前も言ったように、みんなが幸せになって欲しい。だから、結婚する」  コウの迷いのない返事をきいて、私は少し安心する。 「そっか」  そんな一見冷たそうな返事に、私はほほえみを込めて返した。私はその日食べたあのご飯の味を、けっして忘れない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!