優しさの味

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「よおしっ! じゃあ作るぞ!」  と言った耕兄(こうにい)に、 「キッチン汚さないでね、あと片付けて帰って!」  という声を浴びせる。 「耕兄今日は何作るの?」 「まったく。突然来たと思ったら開口一番『キッチン貸して』はないわ」  二人から立て続けに話しかけられたせいで、耕兄は少しオロオロする。  お兄ちゃんって感じはすごいのに、争いごとを止めるのが苦手なのは耕兄のいいところであり、少し悪いところでもあった。 「ねぇねぇ何作るの?」  無視されたのかと思ったのか佳乃(かの)がもう一度きく。 「今日はね、佳乃と優架(ゆか)に『縄文時代のような食事』をふるまってあげよう!」 「注意、それは友達に教えてもらったものの受け売りです」  耕兄の後に私が一言付け足すと、耕兄はそれ言うなよとでもいうような顔でこちらを見てきたので、私は知らないフリでスルーした。 「優架姉、楽しみだねー。どんな料理が出てくるんだろ」 「うん。楽しみだとは一ミリ思うけど。っていうか佳乃、子供っぽさ抜けないね~」 「そんなことないよ! 私だって成長してるもん」  そういう他愛ない話が落ち着くと、私はスマホで 『縄文時代 料理』  と調べてみたところ、結構見た目も良くておいしそうな料理の画像がちらほら出てきたので、とりあえず不味いものではないことが分かった。  本当に不味いかは、耕兄の料理の腕しだいであるが。 「できたー!!」  キッチンから耕兄の少し達成感のある声がきこえてきた。 「ほーい。持ってくわー」 「私も持ってくー!」 「耕兄の分も持ってくね」 「ああ、優架ありがとう」  ヤレヤレ。その純粋な笑顔にやられた女子が何人いるのやら。  料理を運んで皆、席に座る。 「「いただきます」」  皆でそう言って一口目を食べる。 「「……」」 「おいしい」  先に口を開いたのは私だった。  耕兄の作ったこのご飯はおいしかった。 「ほんとにおいしい!」  少し遅れて佳乃が感想を言った。 「よかったー。はじめて作ってみたんだけど、不味かったらどうしようかと思ったー」  ほっと横で安心している耕兄に、いつもの私なら、 『は!? はじめて作ったのに私達に食べさせるってやばくない?』  と必ず言っただろう。  でも、今日はその言葉を言える心持ちじゃなかった。  このご飯がなつかしかったのだ。 「なつかしい……」  私はいつのまにか、そうつぶやいていた。 「え? 優架食べたことあるの?」  そのつぶやきを耕兄に聞かれていたみたいで、少し返答に困ったが、ちょっと考えて私は、こう答えた。 「んーん。食べたことはないの。でもね、どこかなつかしい感じがするんだ」  温かくって、優しい味が。
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