ディナータイムは天敵と

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 美琴の投稿は2種類に分類できる、と気づいたのは、連勤明けの昼食どきだった。  冷蔵庫は空っぽで、外は篠突く雨。ずっと前にもらったご当地ラーメンを作りながら、何気なく美琴の投稿を見返していた。  彼女のプロフィールには「毎日が奇跡のスペシャルデイ☆」とお花畑なことが書いてあるきりで、正体を匂わせる記述は何もない。  投稿はおもに料理の写真。その中に、綺麗にテーブルセッティングされているけれど、自宅で撮られているものがある。  先日観たポークソテーも、ぱっと見はレストラン風だが、同じ皿がこれまでにも何度か使われている。金とブルーのラインが入ったオーバル型の白い皿。外食の日は店名が紹介されているが、この皿の日には書いていない。   「偽装?」  毎日外で食べているように見せかけているのかと思ったけれど、コメントをちゃんと読むと、 ”今日は全部、有機野菜で!” ”調味料少な目で素材の味を楽しむのだ♪”  など、手作りを匂わせる言葉も散見される。  手料理をこれだけ丁寧に盛り付けるということは既婚者なのかも、と心亜は思い当たった。  ザン!と風向きが変わったのか、雨が窓を叩く音がする。両側のこめかみから肩のあたりにかけて、ぞわっと得体のしれないものが走る。    以前読んだ小説で「ほとんど外食だけどたまに夫婦で料理をする」という生活が描かれていた。  余裕があって羨ましい。そう感じたのを覚えている。  でも今、美琴に対して感じる感情は、羨ましい、をはるかに超えて、彼女は天敵ですらない、もう別のステージに入る人間なのだという、圧倒的敗北感だった。  敗北? 勝負なんてしていないのに、どうして負けた気持ちになるのか。    美琴の投稿を遡っている間に、ラーメンは伸びていく。  啜ると、柔らかくなった麺が千切れて気管へ飛び込み、激しくむせた。  げほげほと、ティッシュで顔を拭きながら、思いなおす。  食事くらい、同じものを食べてやればいいんだ。  流行の着こなしも、縮毛矯正も興味はないし、やるつもりもない。  されど、料理は文化である。文系の私が美食に走ることに何ら抵抗はないのである。  心亜は自分自身にそう説明し、どうせなら、と美琴が何度か訪れているビストロをオンライン予約した。
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