リョーコの怖い話:キレイな肌

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 ――彼、どうなったと思う?  実はまだ入院してるの。  顔の皮膚が治ったかはともかく、元気にはしているわ。  親や医者に事情を聴かれて、全部正直に告白したのよ。やっぱり、泥棒に入ろうなんて決意してたときから思考回路がどうかしちゃってたって気づいたみたい。  佐々塚さんのエステのことも話したの。化粧品を盗んだことも、それから彼女がお客の顔の皮を剥がして保管してることもね。  うふふ、もちろん誰も信じなかったわ。  元木くんの母親がお店に化粧品を返しに行って例の部屋の中を見せてもらったそうだけど、吊るされてたのはただのフェイスパックだったんですって。  元木くんったら、佐々塚さんを恨みがましく思うあまり酷い見間違いをしていたのね。  あるいは……元木くんが忍び込んでいたことに気づいた佐々塚さんが証拠隠滅してしまったのかも。薬箱の中にメスが入っていたのは事実だものね、ふふ……。  でも真相は藪の中なの。  彼女は予定通り引っ越してお店もなくなってしまったから。  元木くんの顔はキレイに戻ったのか気になる?  彼はキレイになったって言ってるわ。  それなのにどうしてまだ入院してるのかって?  当たり前なのよ。  彼、頭がどうかしちゃったままなんだから。  外科じゃなくて精神科に入院してるの。  だってね、元木くん、自分の肌を見てちょっとでも気に入らない部分があると、すぐにまた皮膚ごと剥がそうとしてしまうの。  顔だけじゃなくて、腕とか脚とか胸とかもね。  一度顔を剥がしてしまったから癖になっちゃったみたい。  鋭いものが手元になければ爪を使って皮膚に切れ目を入れて、傷に指先を食い込ませて肉から引き剥がすの。  痛いのは分かってるんだけどついついやってしまう。それこそ、指のささくれや唇の割れた皮を手癖で剥いてしまうような感覚なのねえ。  だから、彼の家族も看護師さんたちも、彼のことを見張ってるの。  彼の肌にはどこにも問題ないって言い聞かせつづけてるの。  ふふ……彼にとっては幸せな環境かもね。  肌がキレイだって、みんなが褒めてくれるんだから。  それが真実かどうか、彼自身には分からないんだけど。  さ、私の話はこれでおしまい。
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