リョーコの怖い話:キレイな肌

2/11
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
 彼のクラスに、とても肌のきれいな女子がいたのね。  仮に、倉石(くらいし)さんとしましょうか。元木君は今年のクラス替えで彼女と同じクラスになったの。倉石さんはものすごく美人なわけではないけど、とにかく肌がきめ細かくなめらかでね。それも陶器のように白い顔という感じではなくて、血色のいい健康的な肌色をしてた。  ひょんなことから元木君は彼女に興味を持つようになったの。  なんてことはない、友達と去年の文化祭の写真を見ていたときのこと。その友達は写真部に所属していて、文化祭とか体育祭とかことあるごとに自前のカメラを構えて写真を撮って回っていたの。だから、他のクラスの人を映した写真もたくさん持ってて、クラスのアルバムとして提供してくれてたのね。  なにげなくそのアルバムをぱらぱらめくってたら、後夜祭のスナップ写真で、元木君はある女の子に目を留めたわ。  それが倉石さん。  肌がきれいだから目を留めたわけじゃないのよ。逆に、彼女の顔がニキビだらけだったから。  彼、自分のニキビを気にしてたから、同じように他人のニキビにも敏感だったのよね。  元木君は、そのニキビが目立つ子が倉石さんだと気づいた瞬間に目を見張ったわ。彼、倉石さんと口を利いたことはなかったけど、顔くらいは覚えてた。  彼の知ってる倉石さんの顔にはニキビ一つないんだもの。この写真を撮ったときから今年の四月までの間――そんな短期間に、倉石さんはニキビをきれいさっぱり治していたっていうことなんだからね。  その日から元木君は、倉石さんのことが気になって気になって仕方がなくなった。  彼女と同じ方法で自分のニキビも治せるはずだって、勝手な確信を抱いてしまったのね。  でも、親にも友達にも相談できない元木君が、一度も話したことがない倉石さんにコンプレックスを打ち明けられるはずもない。  だから彼女にニキビを治した方法を聞きたいと強く思いながら、行動に移すことができないまま日々を過ごしていったわ。  そうなるともう、食事制限や規則正しい生活もおろそかになっていた。だって効果がないんですもの。そんな無駄な行為より、一刻も早く倉石さんと話すことで頭がいっぱいだったのよ。  行動的な人って、その行動をやめるのもあっさりしてるものなのかしら。  もしかしたら、あと一ヶ月節制を続けていたら効果が表れ始めたかもしれないのにね。そもそもどのスキンケア製品も効かなかったのは、たった数回使っただけで結果を判断してしまってたからかもしれないわ。  美しさって、そうそうすぐに手に入るものじゃないと私は思ってるけど。あら、嫌みだった? なんてね、ふふ……。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!