オートマタに口はない

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 口の中で迸る肉汁、これはハンバーグだ。しっかりこねられた肉は咀嚼する口を飽きさせない。また僅かに残った焦げ目も乙なもので、食感を賑やかに彩っている。  その後に口にするサラダも絶品ものだ。前の余韻も楽しみたいところであるが、みずみずしさで口の中をさっぱりさせると、サラダドレッシングという魔法の調味料が素材の風味を際立たせる。  食とは最高の文化だ。食で得るものは味や食感、料理の色彩、その場の雰囲気も支配する香り。それらを発見することで我々は食を一つの芸術としても捉えることができる。  目の前に広がる光景は絶景、飽き足らないほどの量の料理は夢のような世界。  食文化が衰退しない限り、我々の持つ食の可能性は無限大である。そう確信していた。  というのも夢の中のお話。目が覚めた、目の前の光景は鉄製の壁が囲む殺風景な部屋だった。いや、部屋というよりは倉庫に近い。  私には消化器がなければ食感を得る口さえない、ただのオートマタ。AIとロボット技術が普及した現代では珍しくない時代の産物である。  私は、食品加工工場で働く工場員としての役職を持ったオートマタだ。  今目覚めたのは丁度仕事の時間になったからで、決して目覚ましが鳴ったとかたまたま目が覚めたとか、そんなものではない。  私の中にあらかじめプログラムされたオートパワーというシステムが、勝手に私を起動させたに過ぎない。  そして私は前もって決められた順路を辿り、前もって決められた持ち場につくと、前もって決められた作業を始めた。  この間、私とすれ違ったのは充電のため交代したオートマタだけで、人間はまだ見ていない。  目の前のベルトコンベアには乾燥食品が流れていて、私はその中の不良品を監査し廃棄する役割を与えられている。  機械技術が普及している現代でも欠陥というものは付き物であり、思いのほか流れてくる不良品にため息をつき、それを廃棄することに心を痛める。 「これも、ちょっと欠けているだけで捨てちゃうんだね」  そんな独り言も日常茶飯事だった。
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