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墓守りの依頼
「では、行きますよ」
セオが先頭に立って歩き始めた。
松明だけの灯りでは心許ないほどの暗闇。辺り一面、墓、墓、墓……。
セオたちはある依頼を受け、この墓地までやって来ていた。
事の始まりは昨日。とある町の酒場での出来事である。
いつものように酒場でのんびりしていると、突然、一人の老人が走り込んできた。
「た、大変じゃ! また、また出よった!」
老人は慌てた様子で酒場のマスターに訴える。しかし、マスターはうんざりした顔で老人に言い返した。
「じいさん、もういい加減にしなよ。そんなデタラメ、もう誰も信じちゃいないよ」
「デタラメなんかじゃない! ワシはこの目ではっきり見たんじゃ!」
尚も食い下がる老人に、マスターはさらに続けた。
「この間だって、旅の剣士に依頼はしたものの、異常は無かったって話じゃないか」
「あん時は、たまたま現れんかっただけじゃ!」
「ああ、もう分かったから、帰ってくれ。商売の邪魔だよ」
ついに、老人はマスターに店から追い出されてしまった。
二人のやり取りを静かに見ていたセオは、ふっと立ち上がると、入口に立つマスターに先ほどの老人の事を尋ねた。
マスターは渋い表情をしながらも、「わかりました」と言って話し始める。
「あの人はラマクといって、この先にある『イスガルの墓地』の墓守をしてましてね。その墓地には、かつて大魔女と謳われたラーマジールの墓があるんですが……。ここ最近、ラーマジールの亡霊が出ると言っては、ああやって大騒ぎしていくんです」
「亡霊……ですか」
神官という職業柄、セオはこの手の話を耳にすることは多くある。だが、大抵は何かの見間違い。恐怖が幻を見せるのだ。
もちろん、本当に出くわす時もあるのだが、その場合は魔物と化してしまっていることが多い。
「その魔女というのは、この世に何か恨みでもあるのでしょうか?」
セオが話を促すと、マスターは「ええ」と言って少しだけ声をひそめた。
「ラーマジールは、時の王の陰謀によって処刑されているんですよ。王子をたぶらかしたとかなんとかで。それが、今からちょうど100年前の話なんですがね……。でもまあ、亡霊の話はデタラメですよ。さっきも言いましたが、何度行っても異常は無かったって言うんですから」
声のトーンを戻すと、もう話すことはないと言ってマスターはカウンターの奥へと戻っていった。
一方、テーブルで食事を続けていたアレス達は、ラマクとマスターのやり取りについて話していた。
「変な話だな。あのお爺さんにしか見えないのかな?」
「馬鹿ね。だからデタラメなんでしょ? いちいち真に受けてるんじゃないわよ」
リディアがわざとらしい溜め息をついて、ベリー酒の入ったグラスを口に運んだ。
「えっ? でも、嘘をついてるようには……」
さっきの老人の様子を思い出し、アレスは反論しようとする。が、リディアに鋭い視線を浴びせられ口ごもった。
こういう時のリディアには、逆らわないのが上策だ。ヘタをすると、延々説教を聞くことになってしまう。
隣に座るドーハンも分かっているのか、ニヤッとこちらを見ただけで何も言わない。
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