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自分でも驚いていた。
心の奥で恐れていたのだ。子どもの手にあの印があったらどうしようかと。
焼き印なのだから、産まれた時はないはずなのに、非民の子は非民だったから、この子も非民として扱われるのじゃないのかと。
気にしていないと思っていた『非民』という産まれと右手の甲が、こんなにも自分を縛っていたと初めて気づいた。
自分も彼らと同じ人間なのだと、やっと本心で思えた。
「ごめん……ありがとう……」
「どうしたのよ」
彼女が優しく笑う。
右腕の傷がズキズキと痛む。人間とは思えぬ所業をした証。
その痛みを甘んじて受け入れよう。これもまた俺の一つの姿。
だけど人として、彼女も息子も、そして親友もきちんと愛していこう。
息子を彼女の腕に預け、彼女ごと抱きしめてキスをする。
その唇は甘かった。
(了)
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