毒物

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「大丈夫ですか?汗、すごいですよ」 父親も自身の異常な汗に気づく。 「そのパイ、毒入りなんですよ」 「でもお前も……」 「俺は中和剤飲んできてるから」 そして駒を動かす。 「チェックメイト。ま、死ぬ毒じゃないですよ。ただ、ちょっと頭が緩んで、しばらく判断能力が欠如するだけで」 「俺が負けたのは、お前の毒のせいだ……」 「ああ、もちろん。そう言い訳しなよ。ただし、祝福の言葉はもらってくぞ」 手紙を書かせて持って帰ると、彼女は嬉しさのあまり泣いていた。 「どうやったの?」と聞かれたから、「パイの力だよ」と答えた。 嘘は付いてない。 彼女の腹が更に大きくなって、もうすぐという所で、あの垂れ目が現れた。 アイツも俺の事を覚えていて、俺も忘れた事などなかった。 「子ども、産まれるんだってね。こんな店まで開いて、立派になって……」 「お久しぶりですね。何のようですか?」 涙混じりの垂れ目に、営業スマイルで応対する。 「話がしたいんだ。今度私の部屋に来てくれないか?」 録でもない話だと予想がついた。 そして実際、録でもない話だった。
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