1人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「大丈夫ですか?汗、すごいですよ」
父親も自身の異常な汗に気づく。
「そのパイ、毒入りなんですよ」
「でもお前も……」
「俺は中和剤飲んできてるから」
そして駒を動かす。
「チェックメイト。ま、死ぬ毒じゃないですよ。ただ、ちょっと頭が緩んで、しばらく判断能力が欠如するだけで」
「俺が負けたのは、お前の毒のせいだ……」
「ああ、もちろん。そう言い訳しなよ。ただし、祝福の言葉はもらってくぞ」
手紙を書かせて持って帰ると、彼女は嬉しさのあまり泣いていた。
「どうやったの?」と聞かれたから、「パイの力だよ」と答えた。
嘘は付いてない。
彼女の腹が更に大きくなって、もうすぐという所で、あの垂れ目が現れた。
アイツも俺の事を覚えていて、俺も忘れた事などなかった。
「子ども、産まれるんだってね。こんな店まで開いて、立派になって……」
「お久しぶりですね。何のようですか?」
涙混じりの垂れ目に、営業スマイルで応対する。
「話がしたいんだ。今度私の部屋に来てくれないか?」
録でもない話だと予想がついた。
そして実際、録でもない話だった。
最初のコメントを投稿しよう!