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「……井戸の水を汲みに……」
「今日一日分の水は汲んであるだろ!」
「弟が瓶を倒しまして……」
兵が舌打ちをした。
無駄に威圧的な兵の態度に逆らわず、俺は怯えたフリをする。
「朝食は?」
「食べました」
「そうか……じゃ、水汲んでこい」
違和感。
いつもなら、もっと殴られ、蹴られ、望みなんてほとんどが叶わないのに。
生きている上での時間も行動も全てを支配されている。そこから外れなくても何かにつけて制裁を与えられ、外れればさらに酷い仕打ちが待っている。
それもこれも、俺たちの先祖がこの国の人間ではないかららしい。
『国民に非』と証明する『非民の焼印』を右手の甲に押され、同じ人間とは扱われない。
そもそも同じ人間とは思われていないのだろう。
そして、何故だか、父も母も、周囲の大人も子供も、こちら側の人間でさえ、彼らと同じ人間と思っておらず、現状を受け入れている。
全く理解できない。
自分たちも、相手も、ただの生き物だろうに。
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