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「素晴らしい!なんて、無様で活力に溢れた眼なんだ!そうだよ、私はこの眼が見たかったんだ」
俺は言葉の代わりにまた血を吐き、ゼーゼーとした呼吸音を立てる。
「苦しいよね?普通は即死の毒物だもの。君ももうすぐ死ぬよ。ああ、何も言わなくてもわかるよ。君も死ぬのはわかっていて、それでも最後まで足掻いているんだよね。最期まで諦めずもがく。なんて感動的なんだ」
目の前の男は敵だった。
たぶん、いや、絶対に、あの兵たちよりも、ずっとずっと凶悪な敵。
もう身体に力が入らない。呼吸もままならない。
それでも、睨み殺してやろうと、男を睨みつける。
「どんな苦難にも立ち向かい足掻く生き物を見ると感動するだろ?私はもっともっと感動したいんだ。今、君に死なれるのは勿体無いなぁ」
男がニコッと笑った。
「そうだ。私の心臓を少しあげよう。非民で、家族を殺され、自分も死にかけて、仲間なんて一人もいない。その中で足掻いて足掻いて、私を楽しませておくれ」
男が何かを呟くと、口から変な模様を描きながら金色の糸が紡がれる。
俺はその糸ではなく、男の顔を見続けた。
尖った顎の輪郭。小さく薄い唇。通った鼻。少し垂れた眼。細く長い眉。丸い頭部。
細部全てを脳裏に焼き付け、金色の糸が俺の胸に触れた瞬間、意識は途切れた。
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