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呪いの治療は「食べる」こと
男に促され、少女は自らブラウスの釦に手をかけた。そして、ためらいつつも前を開いていく。
晒された白い素肌には、紅色の染みがあちこちに散っていた。
「桜。おいで」
おだやかに自分を見つめる男の視線に、桜は頬を染める。そして、おずおずと彼のそばに寄った。
「楓さん……」
うるんだ目で見つめられて、楓は困ったように苦笑する。彼は、紅色の染みが浮かんだ桜の鎖骨にするりと触れた。
肌で直接触れる体温に、桜はぴくりと体を震わせる。
「……っ」
不思議なことが、起こった。
紅色の染みがひとつ、桜の鎖骨のあたりから、首筋に向かってするすると〝泳いで〟いったのである。
よく見ると、桜の肌に浮かぶ染みは全て同じ形をしていた。ずんぐりとした体に、ひらひらと広がるしっぽ。その形は、正に「金魚」のシルエットだった。
桜の肌の下では、何匹もの『金魚の形をしたなにか』が悠々と泳いでいたのである。
一匹の個体に触発され、固まって泳いでいた他の個体も体のあちこちに散っていく。
「……っぁ……」
強い悪寒にぞわぞわと襲われて、桜は自らの体を両腕で抱いた。背中を丸めて、発散できない感覚をやりすごす。
金魚が激しく暴れて動き回るほど、桜の体の中には発散できない何かがくすぶる。そういう『呪い』である。
――金魚症。
術者の念がなんらかの要因でねじ曲がり、本来の標的以外がそれを受けてしまった際に発症すると言われる。
楓は、桜の両肩からブラウスを脱ぎ落とさせた。羞恥で下を向いてしまった彼女の顔を持ち上げさせると、その首筋を泳いでいく金魚の上に口づけた。
「……ん……っ」
桜の首筋に唇が触れた瞬間、そこにいた金魚の輪郭が溶けた。形を失った紅色は、瞬く間に色を失くして消えていく。
「俺に、全て任せればいい」
おびえる桜の耳元で、楓はささやいた。
本能的なものだろう。わずかに抵抗する華奢な体をやんわりと押さえつけて、楓は再び桜の首筋に唇を落とす。首筋から喉に降りて、鎖骨をたどり、肩にもふれていく。
「かえ、でさ……っ……」
もどかしさと不安感に、桜の呼吸は上がっていく。金魚の数は目に見えて減っていくが、いくら治療とはいえ、中と外から撫でられ続けてはキリがない。
「や……ぁ……っ」
楓に腰を撫でられて、桜の体がびくりと跳ねる。その背を抱きながら、楓はスカートの下の太ももに指先を伝わせた。
「……ん……っ……ぁ……」
楓の手に追われ、金魚の動きは段々と追い詰められていった。てんでばらばらに動いていた彼らは、いつの間にか一か所に集められていき、効率よく捕食されていった。
桜の胸元を泳ぐ最後の一匹を口にした楓は、こくりと喉を鳴らして食事を終えた。
「今日は終わりだ。大丈夫か……?」
桜の肩に、ブラウスをかけてやる。楓の胸にぐったりと体を預ける桜は、かすかにうなずくだけで精一杯だった。
治療は終わったのに、乱れた呼吸が戻らない。ひとまずとはいえ原因が取り除かれても、残った感触は簡単にはぬぐえない。
どうしたらいいかわからなくて、桜は楓のシャツの胸元をきゅっと握った。
「たす……け、て……」
楓は、少しだけ瞠目した。自分が桜に何をしたのか自覚があるからこそ、それでもなお頼りとされたことに驚いていた。
「からだ、変……おね、がい…………っ」
「桜。……あとで、恨んでいい」
眉根を寄せて、息を吐く。さすがの楓も、理性が飛んだ。
「っ……!?」
楓の深い口づけに、桜は呼吸ができなくなる。頭の後ろを抱えられながらどさりと押し倒されて、楓から逃げられなくなった。
桜の口内に、舌が差し込まれる。歯茎をなぞられて、舌を絡めて、唇を吸われる。一度角度を変えて、また舌を絡められた。
「……んっ……ん……んぅ……っ」
楓の胸を押し返そうとする桜の腕には、もちろん力は入らない。ろくな抵抗もできないままで、桜の意識は徐々に遠のいていった。
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