恋を・・・つづけたい

13/14
154人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
駅までの道を、ならんで歩いた。 美優が、すっと手をつないできた。 「優依・・・ありがとう」 そう言って私を見る美優の顔が、ほんのり夕日に照らされて、赤く染まって見えた。 「あたし・・・本当に、優依を好きになって良かった・・・これからも、ずっと恋人でいてくれる?」 「うん・・・もちろんよ」 「・・・ありがとう」 それからふたり、ずっと黙ったまま・・・ 手をつないだまま、駅について、切符を買って、改札を通って・・・ 手を離してはつないで、つないでは離して・・・ 電車の中でも、ずっと手をつないで黙ってドアのところで立っていた。 美優の降りる駅に着いた。 ドアが開いた。 「美優・・・じゃあ、また・・・」 このまま別れたくなかった。 後ろ髪をひかれるっていうのは、こういう感情の事だと思った。 わたしから先に手を離したくなかった。 「優依・・・じゃあ」 美優がつぶやいて、ドアをでようと一歩踏み出した。 美優の手から、すっと力が抜けた・・・ 駅員の笛の音が響いた。 「優依っ!」 ふたたびしっかりと握られた手を引っ張られて、わたしも一緒に駅のホームに降り立った。 後ろで、電車のドアが閉まった。 私達の周りを、人々が階段に向かって流れていく。 電車もホームから滑り出て行く。 その中で、私達だけが手をつないで立ち止まっている。 「美優?ど・・・どうして?」 「もう少し・・・もう少し一緒にいたいの・・・」 振り向いて言った美優の顔は、昼間とは違った、それでいて同じくらい思いつめた顔をしていた。 「もうすこし・・・」 そんなこと言われたら・・・わたし・・・ 「でも・・・」 小さくつぶやいた。 ホームからすっかり人がいなくなって、電車も遠くに走り去って、一瞬の静けさがあたりを覆った。 「優依・・・あたし・・・優依にお礼がしたい。今日、連れ出してくれなかったら、あたし・・・」 『3番線に列車が参ります・・・黄色い線の内側でお待ちください』 にわかに反対側のホームが騒がしくなった。 「優依、あたし、何すればいい?優依が好きなこと、してほしいこと、あたし、するから。言って?」 ほとんど叫ぶように、美優が言った。 美優・・・そんな・・・そんなこと・・・ わたしがしたいこと・・・ どきどきどき・・・ 反対側のホームに電車が滑り込んできた。 向かいのホームの人たちから私たちが遮断された・・・ わたしは、美優の耳元にそっと口を近づけて・・・ 「今夜、美優のうちに泊まりたい」 次の瞬間、美優が目を丸くしてわたしの顔を見た。 わたしは・・・顔が真っ赤になるのを感じながら、それでも美優の顔をまっすぐ見た。 美優のくちが、「いいの?」と動いた気がした。 電車の音にかき消されて、声は聞こえなかった。 わたしは、ゆっくりうなずいた。 美優は頭を、そっとわたしの頭につけて、くすくす笑った。 そうして、私の手をとって、階段の方に引っ張って行った。 わたしは・・・恥ずかしさと、期待と不安と、くすぐったい気持ちがごちゃまぜになっているのを、ぼぉっと感じながら、ひっぱっていく美優の後姿を幸せな気持ちで眺めていた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!