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放課後、部活と恋愛と
演劇部の部室に着くまで、どうやってみんなに言い訳しようか考えていた。だって、大見得切って、「水川さんを引っ張ってくるわ!」なんて言ってきちゃったのに、負けるなんて思ってもいなかったから・・・
あと数歩で部室のドアというところで、美優からメッセージが入ってきた。
【優依、今日はありがとう。お礼に、今度の公演に出てあげても良いです。でも、出来れば、ファントム役で出たいです。無理なら気にしなくていいよ。じゃあ、あとで】
3度、読み返した。え?本当?やったぁ!これで私、部活のみんなに自慢できる!もともとお願いしていたのは、「オペラ座の怪人」の主人公、私がやる歌姫クリスティーヌの、幼馴染で恋人のラウル役だった。でも、怪人ファントムなら・・・
【本当?美優、ありがとう!大好き♡】
うっふふふふふ・・・嬉しい。
さっそく、みんなに相談しなきゃ!
中から発声練習の声が聞こえてくる部室の扉をそっと開けて中に入った。
するとみんなが、一斉にやめてこちらを向いた。私は一瞬何が起きたか分からなくて、茫然と立ち尽くしてしまった・・・
「島崎さん!どうだった?水川さん、了解してくれた?」
「優依さん、水の君は?」
「島崎さん、水川さんを説得しに行ってたんでしょ?」
皆が口々に聞きながら私に向かって集まってきた・・・美優・・・すごい人気・・・そんな女性(ひと)と、恋仲になれたなんて・・・ふふふふ・・・
「あー、オホン・・・皆さん、静かに!」
口々に聞いてきた彼女たちは、ピタッと止まった。
「はい。私、水川さんに、この秋の公演に出てもらえるように交渉してまいりました」
みんなの視線が私に集中する。
「そして・・・説得に成功しました!」
きゃーっという歓声と、やったぁという声と、わぁーっという感心の声とが入り混じって、大変な騒動になった。
「でも!でーもー!」
声を張り上げて、みんなに聞いてもらうように、もう一度全員を制した。
「彼女は、ファントム役をやりたいそうです」
みんながどよどよと周りと話しはじめた。そう。ファントム役は、クリスティーヌ役の次に重要な準主役だから、やりたい娘は何人かいた。すると、ファントムをやりたいと言っていた、私と同じクラスの桜庭(さくらば)由美子(ゆみこ)が、一歩前に出て言った。
「水川さんがファントムをやりたいというのであれば、私、ファントム役を譲ってもいいわ」
「ええ、私も」もう一人の娘、2年生の春日部(かすかべ)紗理奈(さりな)先輩も、そう言ってくれた。
「じゃあ、決まりで良いですね?」
私が言うと、みんなは満場一致という感じで拍手が沸き起こった。
「皆さん、ありがとう。それじゃあ、改めて水川さんにそのように伝えます」
「よろしくお願いします」
「よろしく」口々にお礼を言ってくれた。
春日部先輩が、みんなを束ねて、発声練習に戻った。
「はーい、みんな、発声やるわよー!ほら、島崎さんも、準備して、発声、やって頂戴?」
「はい」
カバンを下ろして、とりあえず発声練習の輪に入った。なんだか、充実した気分でいっぱいだった。
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