復讐

1/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 そのバスは山あいの道を走っていた。街の中心地を離れ、山間部へと向かう道である。建物はあまり見当たらず、すれ違う車もほとんどない。乗客は十人ほどで、小学生くらいの女の子とその母親以外は見知らぬ人同士のようで、ほとんど会話はなかった。  やがてバスは停留所に停まり、一人の男が乗車してきた。二十代後半で、ラフな格好をしている。男は乗車した後、空席があるにもかかわらず、座席に着こうとはしなかった。運転手は、それにかまわず発車させた。  車内に不穏な空気が流れた。男は車内を見渡した。他の乗客は視線をそらし出した。すると突然、男が上着のポケットからピストルを取り出した。  車内は騒然となった。女性客の悲鳴が響き渡った。  「静かにしろ!」男は乗客に銃口を向けて言った。女の子が泣き出し、母親がなだめた。  「おい、運転手! 下手なまねはするな。そのまま運転を続けろ」男は運転手に言った。運転手は小さく「はい」と答えて運転を続けた。  「何が目的だ、金なら払うぞ」乗客の一人が叫んだ。  「金はいらない。あんたたちが退屈しているだろうから、ゲームをしてやろうと思っただけだ。そうだな、サイレントゲームとでも名づけようか。まず、鬼を決める。そして、鬼は一言も口をきいてはいけない。もし鬼が一言でもしゃべると、鬼以外の人間を一人ずつ殺していく。どうだ、面白いだろう」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!