婚約破棄だそうで

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 とりあえず、お父様は体面を考えて、ドゥール侯爵家に抗議するでしょうけれど、そこまでは私の預かり知らぬ事。後はお父様にお任せしましょう、と、エミリオ様の事は忘れる事にした。  そう思っていた私の心構えを、ガッツリ裏切ってくれたのは、朝食後ののんびりした時間に、先触れも無く突然やって来たドゥール侯爵夫妻によって、いとも容易く破られた。  「お嬢様!」  「どうしたの、リラ?」  私付の侍女が慌てて私を呼ぶ。珍しく慌てる侍女に首を傾げてしまう。えー、何が起きたのよ。  「ドゥール侯爵夫妻がいらっしゃいました!」  「は?」  えっ? おじさまとおばさまが?  「先触れも出さずに、いきなり」  私の心を見通したように、リラが続ける。  「お父様は?」  「エド様がお呼びになられています。私はお嬢様を、と」  「お母様とお兄様とディールは?」  「奥様もエド様が。カルディス様とディール坊っちゃまにもお話はしてありますが、何とも言えません」  「分かりました。とにかく、お待たせするわけにもいかないから参ります」  リラに言って、ワンピースの皺を伸ばしてみたり、首飾りをチェックしてみたり。それからリラに髪をもう一度整えてもらって、サロンへ向かった。お父様とお母様もちょうどいらっしゃったらしいので3人でサロンに入る。  「ああ! バントレー伯。朝からすまない。ウチの馬鹿息子の仕出かした事を謝りに来ました」  「ドゥール侯爵。随分お早いですな」  お父様、先触れも無しにやって来た事にイラついていらっしゃるわね……。お母様は、とりあえず静観する気かしら。  「本当に申し訳ない。エミリオから話を聞いて、慌ててやって来ました。ルイーザ嬢、馬鹿息子の事を許してやって欲しい。別に君が嫌いとかでは無いのだ」  爵位は確かにおじさまの方が上ですけど、微妙に上から目線で謝って来ますわね。それに、私達は政略結婚で、恋愛感情なんて有りませんけど?  「おじさま、おはようございます。おばさまも。おじさま、お言葉ですが、好きだの嫌いだの、私もそんな感情は持ち合わせておりませんわ。エミリオ様が婚約を破棄したい、と仰ったので承知致しましただけの事」  丁寧に説明してやるが、まぁ簡単に言えば、アンタの所の馬鹿息子に恋しい気持ちなんか無いし、婚約破棄を願い出たのはアンタの息子で、私じゃないの。ってわけだ。  「それは解っている。エミリオにはきつく言い聞かせておいた。謝罪もさせるが、ルイーザ嬢も寛大な心を持って、だなぁ。エミリオを受け入れて欲しい」  要するに、謝らせるから許せ、と。  「エミリオ様が反省されていらっしゃるのかどうか、私には判断出来かねますし、エミリオ様は恐れ多くも陛下直々にお声がかり頂いた結婚をお望みとのことですわ。私とエミリオ様は、そのような関係ではございませんもの」  アンタの馬鹿息子に謝罪の気持ちが有るなら、今、此処にいるでしょうよ! という気持ちを込めて言ってやる。ついでに、王命結婚を望んでるらしいですよ、とも言っておいた。
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