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「女子力、ねぇなぁー」
ある休日の夕方、鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌な様子で、マネージャーの夏野和哉が軽快な金属音を響かせていた。
川越店、大宮店、そして、先月オープンしたばかりの中野店のマネジメント業務をしながらも、ごく限られた客のために彼はハサミを握る。
その選ばれし者は、「ないね……」と相槌を打ちつつ、口もとには微かな笑みを浮かべていた。
茶色がかった柔らかな毛束が、金属音から少し遅れて、パラリ、と床に落ちる。
「まー、広視の歴代彼女たちと言ったら、やったら美人ばっかだったからなー」
間延びした口調でひとりうなずく夏野。“精悍”という言葉が似合う顔立ちの彼と対比するように、キレイな横顔に少しばかりの困惑の色が浮かんだのが見えた。
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