プロローグ

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掃除の途中だったのか、明るい髪色をした若いスタッフが、モップを持ったままクルリと振り向く。大きな丸い目をした小型犬のような青年だった。見たところ、店内には彼ひとり。 「今日はどうされますか?」と、ひと(なつ)っこい笑顔で問われ、(あまね)は思わず言葉に詰まる。なんとなく、女性の美容師だと思い込んでいたので、完全に(きょ)を突かれたような気分だ。 「あ、あの……カットをお願いできますか……?」 十数秒前の勢いはどこへやら、語尾は消え入るように小さくなる。 「カット……ですね」 男は、レジ台の上のデジタル時計を確認して少しばかり思案(しあん)する。言外(げんがい)(わずら)わしさを読み取って、(あまね)はますます恐縮(きょうしゅく)したのだった。 「す、すみません。やっぱり、また今度に……」 「どうぞ、お掛けください」
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