722人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
掃除の途中だったのか、明るい髪色をした若いスタッフが、モップを持ったままクルリと振り向く。大きな丸い目をした小型犬のような青年だった。見たところ、店内には彼ひとり。
「今日はどうされますか?」と、ひと懐っこい笑顔で問われ、周は思わず言葉に詰まる。なんとなく、女性の美容師だと思い込んでいたので、完全に虚を突かれたような気分だ。
「あ、あの……カットをお願いできますか……?」
十数秒前の勢いはどこへやら、語尾は消え入るように小さくなる。
「カット……ですね」
男は、レジ台の上のデジタル時計を確認して少しばかり思案する。言外に煩わしさを読み取って、周はますます恐縮したのだった。
「す、すみません。やっぱり、また今度に……」
「どうぞ、お掛けください」
最初のコメントを投稿しよう!