魔法使いの押しが強すぎる

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総務部のハイカウンターの前では、いやにひとの目を引くイケメン──森埜(もりの)久弥(ゆきや)常務が、柔和(にゅうわ)な笑みを浮かべて、ヒラヒラと手を振っている。 その仕草(しぐさ)は少年のようで、三十歳を超えているとは、にわかに信じがたい。もっとも、社長の息子とはいえ、その年齢で常務の肩書を得ている彼は、決して“ただの優男(やさおとこ)”ではないのだが。 ああ、なにか面倒な依頼をされるんだな、と(あまね)は気づかれぬようにそっと息を吐いた。 奪われたパンプスのことも、クローゼットの中に隠したスニーカーのことも、そして、キレイにしてあげるという提案も、いまは一旦忘れてしまおう。 常務に会釈(えしゃく)を返しながら、(あまね)はそんなことを考えていたのだった。 なお、あの押しの強い“魔法使い”のせいで、日下部(くさかべ)先輩と美香(みか)の一件がすっかり(かす)んでしまっていたのだが、(あまね)がそれに気づいたのは、もっと後になってのことだった。
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