兄妹には為らない!

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 ある日、俺は一枚の婚姻届を目にした。  主藤(すどう)(かおる)という名前と、藤河(ふじかわ)勇一(ゆういち)という名前が記入されていた。  主藤というのは、俺の苗字である。しかし、この時代の日本で、同性婚等できるはずもないので、当然、俺の名前である筈がない。主藤郁というのは、母親の名前であった。  二人暮らしには、ギリギリの広さのアパート。その一室のダイニングキッチンで、俺は置き去りにされた一枚の婚姻届を、その時眺めていたのだ。氷と麦茶の入ったグラスを放置して、次第に汗ばんでくるまでの間、じっとそれを眺めていた。  その時の自分の心情は、どんなものであったと言えるだろう?  元からいくらか分かっていたことだったのだが、知らぬ間にこんなに具体的に決まっていたのだ。  もちろん、俺からすれば、母親の結婚相手等誰でも良いし、彼の結婚相手も誰でも良い。ただ、俺と彼の娘との問題があるのだ。果たして、俺たち四人は家族となってしまうのか? 今まで一度だって、そんなことは無かったのに。そして、気づいたのだ。 「俺、苗字変わんのかな?なんかやだな……」  内心どうでもよい呟きだけを残した。
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