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シャワーを浴びて全部洗い流したつもりだった。激しくて気が狂いそうなくらい感じたことも、あいつと目が合う度に胸が高鳴ってしまったことも。
でも、リビングに戻って顔を見たら──その感覚が蘇ってうまく目を合わせられない。向こうはする前と変わらない顔をして、呑気にスマホをいじっているというのに。
「……急に、悪かったな」
航希がぽつりと言った。謝るなんて珍しい、そう思って驚きながらも、平坦な口調で「別に」と返す。
「俺もシャワー行ってくる」
そう言って振り返った航希は、わたしの顔を見るなりなぜか頬を緩ませた。「何笑ってんのよ」と言うと、「おまえ、すっぴんだと意外と幼いよな」と返される。
「……うるさい。気にしてるから、今のメイクに辿り着いたの。ほっといてよ」
「ふうん」
航希はニヤニヤしながら、濡れた髪をごしごし拭くわたしの隣を通り過ぎようとして──立ち止まって、振り返る。わたしの頭をポンと叩いて「じゃあ、俺以外に見せないほうがいいな」と軽い口調で言うと、リビングを出て行った。
──なによ、それ。どういう意味?
プレゼントといいさっきのエッチといい、いったい航希が何を考えてるんだか分からない。わたしはセフレのうちの一人で、友達でも恋人でもない、すごく曖昧な関係なのに。
いつ終わったって構わない──そう思いたいけれど、いざ終わったらわたしはどうするんだろう。寂しい?悲しい?あいつと一緒にいられなくなるのは嫌?
自分で自分が分からない。まともに恋愛することをサボっていた罰なのかもしれない。
テーブルに置かれたままのピアスを、手にとって眺めてみる。キラキラと虹色に輝く華奢なピアスを見ていると嬉しさが込み上げて、なぜだか泣きたい気持ちになってしまった。
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