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#4 曖昧な関係と日々
「──隣、空き部屋だから、もっと声出してもいいけど?」
「う、るさいっ……」
「なんでおまえはこんなときでも意地張るんだよ」
航希はふっと笑うと、わたしの腰をぐっと掴んで奥まで激しく打ち付けてきた。思わず漏れそうになる甘い声を、枕に顔を埋めながら必死に我慢する。
「……っ、やあ……ああんっ……」
「おまえ、後ろからされるの好きなんだ。犯されてるみたいで興奮する?」
──そんな性癖ないわよ、このバカ。快感の渦に呑まれそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら、わたしは心の中で悪態をついた。
*
「ホテルはコスパ悪いから、今日はうち来いよ」
10月に入ってすぐの金曜日のことだった。不本意ながらもああいう関係になって、早くも1ヶ月が経つ。最近ではお互い下の名前で呼ぶことにもすっかり慣れてしまって、わたしたちは本当に「飲み友達兼セフレ」になりつつあった。
「まあ……確かに、コスパ悪いけど」
「だろ?うち、豊平だから近いし、なんか必要なもんあれば買って置いとけば?」
──彼女でもないのに、なんだかなぁ。そう思いながらも、毎回ホテル代を出してもらっている身としては、その提案に乗らない理由がない。
「物なんか置いていいの?他のセフレが怒るんじゃない?」
「ああ、家に入れないようにしてるから大丈夫」
航希はさらっと言って、残りわずかのビールをくっと飲み干した。ちなみに今日はいつもの居酒屋ではなく──会社近くのあの店ばかり使っていると、いつか誰かに見られそうで怖い──、すすきのにあるチェーン店だ。
「あ、そう」
「未央はプライバシーとか侵害してこなさそうだから、入れてもいいかなって」
「……どんな女と付き合ってんのよ」
思わずジト目で奴を見ると、「いや、みんな可愛いんだけどな?金とか物とか取られたら、嫌じゃん」とニヤニヤ笑っている。
──いや、本当にどんな女と関係持ってんのよ。ほんと、ろくでもないんだから。
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