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天狗の青藍(せいらん)
「青藍!どこ?青藍っ」
「なあに?お母さん」
僕を呼ぶお母さんの声が聞こえて、家の裏庭で柴犬の紺(こん)と遊んでいた僕は、慌てて声が聞こえてきた縁側へと走った。走って来た僕を見て、お母さんが困ったように笑う。
「まあ、紺の毛をいっぱい付けてっ。お部屋に行って着替えて来て。銀(しろがね)様がいらしてるわよ」
「えっ!しろおじちゃん来てるのっ?じ、じゃあっ、凛(りん)も来てるっ?」
「ええ、あなたにお土産があると言って、客間で待ってるわ」
「やったぁっ!僕、急いで着替えて来るっ」
そう叫ぶと、僕は縁側を登って、部屋に向かって駆け出した。
「ちゃんと手を洗うのよっ」と言うお母さんの声が後ろから聞こえる。
僕は、洗面所に行って素早く手を洗い、拭くのもそこそこに部屋へと走った。
着ていたトレーナーとズボンを脱いで、お母さんが用意しておいてくれた長袖シャツと膝下くらいまでのズボンを履く。脱いだ服は、いつも「洗面所に置いてあるカゴに入れなさい」って言われてるけど、今はそんな暇はない。
僕は、脱いだ服をそのままにして、客間に走って行った。
「凛っ!」
叫びながら客間に飛び込むと、しろおじちゃんの隣に座っている凛が、笑って僕を見た。
僕は、勢いよく凛に抱きつく。凛が少しよろけながら僕を抱きとめて、優しく頭を撫でてくれた。
「青藍、また大きくなった?」
「うんっ。ちょっとだけ背が伸びた!もうすぐ、凛に追いつくよ」
「…え〜、いやいや、いくらなんでも五歳の子には、まだまだ抜かされないよ…」
僕は、「え〜っ」と頰を膨らませながら、身体の向きを変えて、凛の膝の上に座る。僕の頭の上で凛がクスリと笑って、僕のお腹に手を回した。
「おい、青藍…。おまえ、相変わらず図々しいな。凛は、俺の嫁だぞ」
隣からしろおじちゃんが怖い顔をして、僕を凛の膝の上から退かそうとする。それを凛が、「銀ちゃん、ダメだよ。青藍相手に本気にならないの」と言って、止めてくれた。
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