天狗の青藍(せいらん)

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次の日から、紺と遊ぶ時間を減らして、僕は勉強と修行を頑張った。 お父さんは、「まだそんなに頑張らなくてもいいんだぞ?」と心配そうに言ってたけど、蘇芳(すおう)おじいちゃんに聞いたら、お父さんも僕くらいの頃から勉強も修行も頑張っていたと言っていた。なら、やっぱり僕も頑張って強くなりたい。 お母さんは、黙って僕を見守っていた。時々疲れて休んでいると、「頑張ってえらいわね」と褒めてくれた。 そんな毎日を続けて、凛が来た日から十日程が経ったある日、僕が庭で翼を広げて飛ぶ練習をしているところへ、お父さんとお母さんが来た。 「青藍、ちょっとこっちへいらっしゃい」 屋根の高さまで飛び上がっていた僕は、お母さんに呼ばれて、縁側のすぐ傍に降りた。 「なあに?僕、まだ練習したいんだけど」 そう言って縁側に座った僕の後ろに、お父さんとお母さんも座る。 桜の花も散って、空気も暖かくなってきたからか、僕の額にジワリと汗が滲み出ている。僕は、縁側に置いてあったタオルで汗を拭いて、後ろを振り返った。 「青藍、おまえは今、強い天狗になると言って、勉強や修行を毎日頑張っている。そんなおまえだから大丈夫だとは思うのだが…。今日から一週間程、僕と杏(あんず)が、郷を留守にする話は前にしただろう?それでな、留守の間、凛が『よかったら家に泊まりにおいで』とおまえを誘ってくれたんだが…どうする?僕と杏がいなくても、この家には使用人がいるし、近くにはおまえの祖父母もいるから大丈夫だとは言ったんだが…」 「いっ、行くっ!今日からっ?今日から行っていいのっ?僕っ、急いで用意してくる…っ!」 お父さんの話を聞くや否や、僕は縁側に飛び乗って、全速力で部屋へ向かって走り出した。 「待てっ、青藍」 「あっ…!」 数メートル走った所で僕の身体がピタリと止まる。首に力を入れてゆっくり振り向くと、お父さんが僕に向かって掌をかざしていた。 「行くならちゃんと風呂に入って綺麗にしろ。それと、凛としろの家では、今みたいに走ったりしてはダメだ。わかったな?」 首を動かすには、すごく力を入れないと動かせないから、僕は目だけを動かして、わかったと告げる。 と、次の瞬間、僕の身体を縛り付けていた力が取れて、前に二三歩よろめいた。 「お父さん…ずるい。僕もその術、使いたいっ」 「おまえが凛の家でいい子に出来たら、帰って来てから教えてやるよ」 「やったぁ!約束だよ?大丈夫!僕、凛大好きだもんっ。いっぱいお手伝いして、一緒に寝るんだぁ」 「…そうか。しろが、どうするかな…」 後ろでお父さんがしろおじちゃんのことを言ってるけど、そんなの知らない。 僕は、凛の甘い匂いに包まれて寝たいんだ。そして、朝一番に、凛の可愛い顔を見て、ほっぺにチューをする! その様子を考えるだけでとてもワクワクしてきて、僕は洗面所に駆け込むと、翼をしまい一気に服を脱いで風呂場に飛び込んだ。
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