865人が本棚に入れています
本棚に追加
光穂が悲痛な顔をして、ずっと謝りながら保健室まで付いてきた。
僕が手を伸ばす前に扉を開けると、僕の背中をそっと押しながらベッドへ誘導して座らせる。
「どうしたんだ、光穂。…ああ、一ノ瀬がまた肩を傷めたんだな」
「あ!兄さんっ。よそ見してた俺も悪いんだけどさ、隣のクラスの、ほら、いつも話してるいけ好かないアイツが俺にぶつかってきて、よろけた俺を青藍が抱きとめてくれたんだ。でも、そのせいで肩を痛めてしまって…」
僕達が入って来たすぐ後に戻って来た朝霧先生に、光穂が説明をする。
「あいつか…。強い力を持つ一ノ瀬が妬ましいんだろう。光穂、おまえ一ノ瀬を守るならまだしも、おまえが負担になることをしてどうする。以後、気をつけろ」
「わかってる…。青藍と同じクラスになれたのが嬉しくて気が緩んでた。兄さん、俺、ちょっと行ってくるわ。やっぱアイツだけは許せねぇ」
「そうだな…、落とし前つけてこい」
「わかった。青藍、ごめんな。ちゃんと治せよ」
「え?あっ、待っ…」
僕が止める間もなく、光穂が保健室を飛び出して行った。
光穂が開け放した扉を閉めて、棚から貼り薬を取り出した先生が、僕の傍に来る。
「先生…、光穂を行かせて良かったの?ホントは止めなきゃいけないのに…」
「あいつは結構頑固でさ。兄である俺の言うことなんて聞きやしないよ」
「知らないよ?怪我しても」
「大丈夫だろ。あいつも、おまえには適わないけどそこそこ強いぞ?」
僕は大きく息を吐くと、ブレザーを脱いでベッド脇の棚の上に置き、シャツのボタンを外して肩を出した。
先生が冷やりとする貼り薬を貼る間、間近の黄色がかった瞳を見る。
光穂と同じ色の瞳…。先生と光穂は兄弟だ。
柚葉は、先生が僕を追いかけてこの学校に来たと怒ってるけど、先生は、光穂が心配で来たのだと言っていた。
僕は、正直どちらでもいい。
先生は、昔のように僕に触れたりしなくなったし。
ただ手際よく、肩の治療をしてくれる。
些細なことで肩を痛めてしまう僕にとって、すぐに治療出来るのはとても有難かった。
最初のコメントを投稿しよう!