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午前中だけで学校が終わり、皆それぞれに教室を出る。
光穂に一緒に帰ろうと声をかけられたけど、用事があるからと、鞄を持って教室を出た。
階段を降りて玄関とは反対側へ向かう。保健室と書かれた扉を開けて中に入る。
先生は職員室にでもいるのか、部屋には誰もいなかった。
誰もいないならちょうどいいと先生の机の前の椅子に座り、鞄から本を取り出して、栞を挟んだページから読み始めた。
ここで少し時間を過ごし、新入生が登校してくる時間に合わせて、学校を出るつもりにしていた。
集中して読んでいると、あっという間に時間が過ぎた。
窓の外がザワザワと賑やかになってきたので、本を鞄にしまって保健室を出る。
玄関で靴を履き替えている僕の背中に、「おい…」と声がかけられた。
「なに…?」
訝しげに振り向いた僕の目に、さっき廊下から睨んでいたあの男の険しい顔が映った。
僕はゆっくりと立ち上がり、微かに首を傾げる。
「何か用?急いでるんだけど」
「ちょっと顔貸せよ。話がある」
「…わかった。でも早くしてよね」
無言で歩き出した男の後ろを、溜息を吐きながらついて行く。登校して来る新入生の間を縫って、校舎の角を曲がり、誰も来ない倉庫の裏に連れて来られた。
男がピタリと足を止めると、僕の方を向いて鋭く睨む。
「おい天狗、昨日はよくも俺に毒を入れたな」
「え?毒を入れたのは蛇の光穂でしょ?僕じゃないから」
「はあ?とぼけても無駄だっ。おまえが手下のアイツに命令したんだろうがっ!」
「何言ってんの?光穂は友達で手下なんかじゃない。というか、そもそもぶつかってきたそっちが悪いんじゃん」
「ああ?あの蛇野郎がよそ見してるから悪いんだろっ。…まあ、そんなことはどうでもいい。俺はおまえをやっつける。そうすれば、俺が天狗族を従えたことになるよなぁ」
「……」
僕は首を振りながら大きく息を吐いて、額に手を当てた。
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