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黙ってしまった僕をどう思ったのか、男が声を上げて笑う。
「ははっ!怖くなったのか?謝るなら今のうちだぞ!」
「はあ…。違うよ。バカだなぁって思ったんだよ」
「な、なんだとっ!」
僕はもう一度溜息を吐くと、男に憐れみの目を向けた。
「あのさ、君が僕に勝ったとしても、この年代の中では強いってだけで、天狗族を従えることなんて出来ないよ?」
「はあ?なんでだよっ」
「天狗の郷にはね、僕の父さんや父さんの従兄弟、六大天狗という、僕よりもずっと強い天狗がたくさんいるんだよ?その人達に勝たなきゃ、天狗族を従えることなんて出来ないからね。そもそも、昨日の光穂に負けた時点で僕には勝てないことがわかってる筈だよ。なんだろ…、耳や尻尾がついてる妖って、能天気なのかなぁ…」
「なっ、なんだとっ!」
プルプルと身体を震わせたかと思うと、男が僕に掴みかかろうとした。
男の手が触れる寸前で弾き飛ばしてやろうと目を細めた僕の身体が、いきなり背後から誰かに抱きしめられる。ハッと目を見開いた瞬間、男がお腹に火の玉を受けて、後ろへと大きく飛ばされた。
「てめぇ!猫又の分際で俺の大事な青藍に手を出そうとしんじゃねぇぞっ!次やりやがったら尻尾を引っこ抜いてやるからなっ!」
「…くっそ…!誰だ、おまえはっ」
「俺?俺は…」
「天清!」
僕は、力強い腕の中で身体を反転させると、三年前よりも更に背が高くなった天清を見上げてしがみついた。
「天清…っ!元気だった?会いたかった?僕はずっと会いたかったっ!」
「俺だってずっと会いたかったに決まってるだろ!だから追いかけてこの学校に来たんだ!」
「…うん。天清、大きくなったね…」
「青藍を守るために鍛えたからなっ!」
「…それにもっとかっこよくなってる…」
「そうか?青藍はやべーくらいに綺麗になった…」
天清を見つめる僕の目に、近づいてくる天清の顔が映る。そっと目を閉じようとしたその時、後ろから怒りを含んだ声が聞こえてきた。
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